運命より先に


 君が、好きだ。


 物心ついて、初めてできた友達。
 本当の友達。
 僕の幻影でなく、僕自身を見てくれる友達。
 君の前でなら、どんな情けない姿を見せても、幻滅などされないだろう。
 何故なら君が友達だと言ってくれたのは、一番情けない時の僕だったからだ。


「どうしたんだ?風也?」
「いや!なんでもないんだ!」
 気付けばじっと見つめていたようで、首をかしげていぶかしむ遊馬に、風也は慌てて手を振った。
 撮影だ打ち合わせだと忙しい風也は、その知名度もあいまって、気軽に外出もできない。だから、暇な放課後など、時間が合えば遊馬の方から訪ねてきてくれる。
 遊馬には関係者用のパスをあげたから、風也の控え室まで素通りでやってこれる。
 幾度か訪れるうちに、特徴的な髪型の少年はスタッフにも覚えられて、今では顔パス状態だ。
 遊馬が撮影スタッフのなかに馴染んでくるのをほっとする一方で、風也の中にチリチリと胸の中をかき回すものがあった。
 それが嫉妬だと知るのは、とても簡単な事で、ようやく風也は自分の『好き』の意味を理解した。
 一度理解してしまえば、遊馬は恋の対象にしか見えなくなる。
 
 スキ、だからいつも見てる。
 スキ、だから君を知りたい。

 学校に行けば大勢の友達に囲まれて、気がつけば新しい友人が増えている。
 自分がその他大勢の中に埋没していく焦燥感に駆られ、けれど、気持ちを打ち明けることで友人関係すら終わってしまいそうで、何もできずに、ただ、見ていた。

 そのうち気付いた、君の心の奥にある、闇。
 
 悲しかった。
 君は、それから逃げるために強く優しくなったんだ。

 同時に気付いてしまった。
 君を手に入れる方法。

 帰る君をゲートまで見送る、その途中で。
 沈みかけの夕焼けが、二人を染めていた。
 今なら頬に赤みがさしても気づかれないだろうという風也の計算だった。
 冷静に言える自信なんてないから。
「遊馬、君が好きだ。」
「え?オレもスキだぜ、風也!」
 屈託なく笑う君は予想通り。
 だから、もっとわかりやすい言葉を続けた。
「友達の好きじゃないんだ。恋人に、なって欲しいって事だよ。」
 僕の顔は赤くなっていただろうか?
 風也はそらしそうになってしまう視線を、懸命に遊馬の瞳に固定しながらそう続けたが、次の瞬間、夕日に照らされてもなおわかるほどに遊馬の頬が赤く染まった。
「なっ、何言ってんだか、わかんねぇよ・・・」
 語尾に行くほどに小さくなる声は動揺の証。
 しかし、男同士だということに、嫌悪感を持っている様子は見られない。
 遊馬の心は戸惑いや混乱でわけがわからない状態だろう。
 けれど、風也には確信があった。

 遊馬は、告白されたなら、断れない。

 自分はとても小心で卑しくて、こんな確信がなかったらとても言えなかっただろう。
「遊馬の事がすきなんだ。」
「でも俺・・・」
 とどめとばかりにもう一度告げれば、いつも真っ直ぐな遊馬の目があたりを彷徨う。
「友達の延長から始めよう?」
 優しく逃げ道を示してあげれば、それにすがりつくようにうなづく君。


「大好きだよ。」
 そう言って抱きしめる。
 


 君が運命に出会う前に


 僕は君を手に入れる



遊馬の運命のライバル(と書いて恋人と読む)はカイトかなと思うし、真の運命共同体はアストラルなわけなんですが、そこへ割り込みをかける風也君萌えです。





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