丁度僕が愛染くんと蛍丸くんとお絵描きしている時、主様はやってきました。
ちょっと五虎退借りるねって僕の手を優しく握って立ち上がらせてくれて、そのまま一緒に回廊を歩いて行ったんです。でも僕、お空を水色のくれよんで塗っている途中だったから主様の白い手を汚してしまうと思って。何度も言おうとしたんですけど黙ったままの主様なんて初めて見たから、僕、緊張してしまって、言えなかったんです。お庭のお池が見えるところまで来た頃にやっと止まった主様は僕を座らせてここで待っててって走って行っちゃいました。それで主様の背中が消えた方を見てると鳴狐さんが目を丸くしてすごい速さで走ってきたんです。え?あっ、主様が背中を押して走っていたからあんなにびっくりしてたんですね!あの、だから、僕もよく分からなくて…ごめんなさい。
「主殿!何故鳴狐を連れ去ったのですか!私、追いかけるのに必死だったのですよう!理由をお聞かせ願いたい!」
連れてきた鳴狐さんを僕の隣に座らせた主様はその間のほんのちょっとの隙間に押し入って座っています。ぎゅうぎゅうで少し苦しいです。すごく興奮しているお供の狐さんは今はその主様の首に巻かれていて、僕の虎さんも主様のお膝の上で寝転がって遊んでいます。ああ、主様の服を噛んじゃダメですよ!
「落ち着く…大満足…」
「主殿〜!お聞かせを〜!」
「動物園組に癒されたかったんだよー。同田貫も小狐丸も獅子王も鶯丸もみーんな出陣してるから二人と一匹しかいないけど」
「あっ、鶴丸さんいますよ!」
「あいつはだめ。癒し効果0」
虎さんのおなかにお顔を埋めた主様は何かを唸りながらお顔を左右に動かします。虎さんがくすぐったそうにもぞもぞしてて楽しそうなので今度僕もやろうと思います。喜んでくれるかなあ。
「はっ…!主殿〜分かりましたよ、これがあにまるせらぴぃと言うやつですね!?ねっ、主殿!ね?」
「そうそう。賢い狐さんにはご褒美で尻尾の毛を梳いてあげますぞ〜」
ぽけっとから取り出した折り畳み式の櫛でぶらっしんぐされている狐さんは途端に静かになりました。気持ちよさそうに目を閉じて主様に身を任せています。小狐丸さんがいたらきっとヤキモチを焼いてしまいますね。あとで、僕のことも撫でてくれるでしょうか。
「あ〜〜…。もうお仕事したくないよう」
「お仕事、いっぱいなんですか?」
「そう、いっぱい。やってもやっても終わんないの。あ、」
虎さんは主様のお膝からお庭へ飛び降りて、桜の木の周りを飛んでいる黄色い蝶々を追いかけてぐるぐる走りだしました。空いたお膝を暫く眺めてから、主様の目が僕を写します。綺麗な目がとろんと細められて、優しい声で僕の名前を呼びました。
「おいで」
「え?えっ」
「いいからいいから。よい、しょ…っ?あ、思ったより…!男の子だからこれくらいか…!」
「あ、えぇ…っ」
主様の手が僕の脇の下に入ったと分かった時にはもうお尻は浮いていて、柔らかいお膝の上に降ろされてしまっていました。主様の上に座るなんて…!ああ、どうしよう、いちにい…僕、あの、こういう時はどうしたらいいんでしょう…!?
「こっち」
鳴狐さんの声でした。お供の狐さん以外に話しかける鳴狐さんは久しぶりに見た気がします。だけど話しかけられた主様は僕の頭の匂いを嗅いでいて聞こえていないようです。僕は早く気づいてくださいと一生懸命祈ることしかできません。主様、主様、鳴狐さんが困ってしまいます。
「こっち」
鳴狐さんは僕ごと主様を抱きかかえて、自分の足の間に主様を座らせました。鳴狐さんは隠れた力持ちでした。僕以上に驚いている主様がすっぽりと収まったそこから退こうと動くので落ちそうで怖いですぅ…。
「こっちの方がいい。…あにまるせらぴぃ」
「変に緊張するって…」
主様のお顔が今度は僕の肩に埋まりました。二本の腕が僕を力一杯抱き寄せるので身動きが取れません。主様は少しお転婆だと言っていた歌仙さんの声が頭の中で聞こえました。でも僕はそんな主様も好きです。だってとっても優しいんですよ。鼻から空気を吸う度に主様の髪の毛のいい匂いが僕の胸をいっぱいにするからなんだか僕も緊張してきました。でも幸せであったかくていい気分です。いつの間にか鳴狐さんの肩に戻っていたお供の狐さんは眠っていました。虎さんたちも固まってお昼寝しています。あにまるせらぴぃは誰にでも効いちゃうんですね、今度虎さんたちに手伝ってもらっていちにいにもしてあげようと思います。


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