フローラルな香りを纏った小夜ちゃんと私は台所で二人、何も乗っていないまな板を見て佇んでいた。
「さて、と。結局タオルとか準備してる間に小夜ちゃん上がってきちゃったね」
「ごはん、手伝うよ」
「いい子だねぇ、小夜ちゃんは。じゃあお米を炊きましょう!」
「ン」
何はともあれ米だ、米。お米さえ炊いとけば後はどうとでもなるからね。たぶん。
「………」
「………」
「どれだけ炊いたらいいかな?」
「いっぱい」
「んー…?了解」
いっぱいってどれくらいだ?
内釜にザラザラとお米を流し入れながら考える。さも当たり前のようにご飯作るよ?と言ったけれど審神者ちゃん本当はお米すら炊いたことがないし、できる料理と言ったらゆで卵かスクランブルエッグくらいだ。なぜなら今までは母上が作ってくれていたから。
まあある程度適当にやってもなんとかなるでしょ、炊飯器という文明の利器が私にはついてるんだからね。なんか水吸って膨らみそうだしこんな感じでいいか。
「………」
「何回洗うの?」
「…知らない」
「適当でいっか」
「うん」
しゃかしゃかしゃかしゃか。小夜ちゃんは興味津々と言った感じで食い入るように私の手元を見つめていて、私は私でお水が白く濁っていくのがどうしようもなく不思議で、台所にはお米が擦れる音と水の揺れる音しかしない。
お米すげえ、何回洗っても白いの出る。
「………」
「………」
「もういっか」
「もういい」
「お水どれだけ入れるんだろ」
「線がいっぱいある」
「…小夜ちゃんどの線がいい?」
「一番上」
「じゃあそこで」
たっぷり水の入った内釜を炊飯器にセットして早炊きボタンを押した。
早く炊けるならこんなボタン押さずともいつも早炊きしろよ。すぐ食べたいに決まってんだろ。怠慢は許さんぞ。

「上がったよ」
「おかえりなさーい。たぶんもうすぐご飯炊け、」
炊き終わりをお知らせする高い音が台所から聞こえてきた。ナイスタイミング。
「!炊けた…!」
「小夜ちゃん、見に行こう!どれどれ…」
二人で炊飯器に駆け寄って蓋を開けて覗き込む。文明の利器使ってもなんとかならんかったわ。
私作、初めての白ご飯はなんだかとても可哀想なことになっていた。隣の小夜ちゃんの様子をちらりと盗み見ると目を見開いて固まっている。そんなにショックだったか…、お米も炊けない審神者で申し訳ない。
少し遅れて誰かがやって来た。黙り込む私たちの頭を越えて後ろからお米の有り様を目の当たりにしているに違いない。
「………」
「………」
「…なんだいこれは」
「…ご飯じゃなくておかゆできちゃった、えへ」
「…大将夕餉は米だけか?」
「あ」
「あ」
やっちまった。小夜ちゃんと声がかぶって苦い笑顔を浮かべる私を、信じられないとでも言いたげな視線で責めてくる歌仙くん。ごめんねー、と謝れば大袈裟に溜息をつかれてしまった。
「…僕が作ろう」
「歌仙の旦那、手伝うぜ」
「いいかい、君達は台所に出入り禁止だからね」
少し借りるよ、だなんて言って私の持っていた黒ゴムを奪って徐にふわふわした前髪をかき上げて縛り始めた歌仙くんのかっこいいことかっこいいこと…。
おでこが可愛すぎるよ、歌仙くん!そんな百円で売ってるようなゴムなんかじゃなくて、今度可愛いリボン買ってきてあげるからね!
「失敗しちゃったねー、小夜ちゃん」
「食べれればなんでもいい」
励まされた。素っ気ない言い方しちゃってもう!いじらしいんだから!恥ずかしがる小夜ちゃんをぎゅうぎゅう抱きしめていると乱ちゃんと五虎退ちゃんも当然混ざってくる。四人できゃっきゃうふふしているところに鯰尾くんまで混ざろうとしてきた頃、美味しいご飯が運ばれて来たのでした。