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私には大倶利伽羅廣光というめちゃくちゃかっこいい名前の友達がいる。顔もまあ。かっこいい。もちろん男の子で、同じクラスで隣の席で今年友達になったばかり。倶利伽羅は叔父の長谷部国重さんとマンションの上の階の方の広い部屋で一緒に暮らしている。一度だけ遊びに行ったことがあるけれどエントランスがぴかぴかで広くて、エレベーターも静か。頭が悪そうなことしか言えないけれど興奮してしまってこれくらいしか覚えていないのだ。長谷部さんもそこに住むに相応しい、かっこいい大人の男の人だった。その時ばかりは倶利伽羅が眩しく見えた。
普段はそうでもないよ。なんたって倶利伽羅の友達は私しかいない。私一人だけ。今流行りのコミュ障なのだ。それにこんな見た目で猫が好きだし喧嘩はしない。たぶん。とにかくそんな見かけだけは一丁前に不良で居眠りが多い倶利伽羅にノートを貸している私はこいつにとっての親友、且つ恩人なのである。
「長船さんってさあ」
氷が溶けてすっぱい水のようになってしまったオレンジジュースを一口分吸い上げて嚥下した。倶利伽羅はテリヤキバーガーに大口を開けてかぶりつく。
「なんなの?」
「………。光忠は光忠だ」
「いや、そうじゃなくて」
倶利伽羅のこういう、ちゃんと口の中の物を飲み込んでから喋るところなんかは良いと思う。ペットボトルのキャップを分別したりだとか、ながらスマホをしないだとか、なんだか可愛いから私も真似している。
この間倶利伽羅と帰り道をだらだら歩いていた時に初めて会ったのが長船光忠さんだ。倶利伽羅の知り合いらしい。その場でふるふるさせられてラインを交換してからというもの、何度会話を終わらせても毎日のように届くおはようから始まるメッセージのせいでトークの一番上にずっと長船さんのどこかのバーらしき写真のアイコンが鎮座しているこの訳の分からない状況に私は悩まされていた。喉も渇いていないのにまたオレンジジュースを啜る。
「絶対引っかかっちゃいけない系の男の人だよね?ホストかヤクザだよね?どうなの、倶利伽羅ー」
「まあ」
「あの人ほんとなんなのぉ?胡散臭そうだしいつも黒っぽい服ビシッとキメてるし怖いんだけど。綺麗なお姉さんめちゃくちゃ泣かせてそうだしさあ。ねー倶利伽羅ーー」
「そうだな」
「ひどいなぁ、二人とも。僕のことそんな風に思ってたの?」
「ヒ…ッ?!お、長船さん……」
「こんにちは、主ちゃん。今日はお化粧薄めなんだね、それも可愛いよ」
お化粧薄め?眉毛以外スッピンなのにお化粧もクソもあるか。思ってないことをよくもこう平然と言えるものだ。あんたの周りは化粧バチバチの綺麗なお姉さんしかいないくせに。これはきっと嫌味だな?あーあー、こんなことなら睫毛上げてマスクくらいはしとくんだった。大体なんでこの人いるんだ。いつの間にか会話に参加していた長船さんは私たちが座る4人掛けテーブルの倶利伽羅の隣の席に座った。ブラックコーヒーの匂いを倶利伽羅のポテトを食べることで誤魔化した。
「あーあ、また晩ご飯前に食べちゃって。長谷部くん怒るよー?」
「問題ない。晩飯も食べる」
「さすがだね、男子高校生。でも3つはさすがに食べすぎだよねぇ?主ちゃん」
「ぇ、あ……まあ…」
倶利伽羅に話しかけているはずなのに長船さんのぺらっぺらな笑顔はもうずっと私に向けられている。片手で頬杖をついて真正面から狙い撃ちされているので気まずいことこの上ないし、手汗がじんわりと滲んできた。倶利伽羅、お願い。ナチュラルに解散の流れに持って行って。
「……光忠、見すぎだ」
「え〜?いや、あんまりにも可愛くって」
嘘つけ。ガキくさい女子高生にもお世辞を言ってあげるなんて優しいボクかっこいい!とでも思ってんだろ。私は舞い上がったりしないぞ。
「ね、主ちゃんは廣光が好きなの?」
「ごふッ」
「はあ?」
倶利伽羅が吐き出したクリスプがこっちにまで飛んできた。汚い。紙ナプキンでさっとふき取ってから、丸めて倶利伽羅のトレーに放り投げる。
「あれ?違った?」
「ち、違います。てかそれラインでも聞いてきませんでしたっけ…?」
「やっぱり直接聞かないと分からないでしょ?彼氏がいないっていうのもホント?」
「…そうですけど」
口角が上がりっぱなしの口元はそのままに、金色の瞳が少しだけ鋭くなった気がする。遠慮なくキミを口説き落とせるよ、とでも言い出しそうな顔だ。
「こんなに可愛いのにね。でも僕としては嬉しいかな」
うわ、本当にそれっぽいこと言ってきた。なんなの、この人マジで。気障ったらしいことを言っているけれど、そんな長船さんを見る隣の倶利伽羅の憐れみに満ちたなんとも言えない表情の温度差がシュールで全然ときめかない。馬鹿な女子高生で軽く遊んでやろうって魂胆なのは分かっているんだからな。
「………。でも好きな人がいないとは言ってません」
「えっ」
「あの、私そろそろ帰ります。倶利伽羅また明日ー」
「ああ」
「え?ちょっと待って、ねえ!主ちゃん!」
さっさと鞄を持って席を立った私からは見えないけれど、後ろでガタガタと慌ただしく立ち上がる音が倶利伽羅のそれ以上着いて行くとストーカー確定という言葉でぴたりと止んだのであいつにはほんのちょっぴり感謝しないといけない。好きな人なんていたら毎日倶利伽羅と遊んでねーよ。