『あ、大倶利伽羅くんのご飯は私が運ぶ!』
『あー…あの、隊長頑張ってください!怪我に気をつけてね!』
『大倶利伽羅くん甘いの好きかなぁ』
「って、毎日毎日倶利ちゃんのことばっかり。あと倶利ちゃんと喋れた日は僕に嬉しそうに報告しに来るんだよ。健気だよねぇ」
「…構うなと伝えろ」
「えー、酷すぎるよ倶利ちゃん。主ちゃんがあんなに頑張ってるの、僕初めて見たんだからね!仲良くしてあげればいいのに」
降ろされてから2週間経った。飯は美味い。馬もいい。ただあの審神者とかいう女と光忠や鶴丸、長谷部が無駄に構ってくるのにはうんざりだ。勝手に隣に腰を下ろして審神者の話をしだした光忠はまるで元から人間だったかのように笑う。なにが仲良くだ。お前は順応が早すぎるんだ。
「鬱陶しい。俺は一人でいいんだ。それに最初に言ったはずだ、馴れ合うつもりはないと。扱いにくいと思うなら刀解でもなんでもすればいい」
「…主ちゃんは絶対刀解なんてしてくれないと思うよ。僕たちのこと本当に好いてくれてるからね。一体何が気に食わないの?こんなに大事にしてくれてるのに」
「…役割は果たしてる。放っておいてくれ。お前もだぞ、光忠」
「そんなこと言って寂しがりなくせに」
「叩き切るぞ…」
「あ、光忠さん!」
光忠と同じくらいよく飯を作っている脇差は俺に気づいてから軽く会釈した。心なしか焦っているように見えるが。
「堀川くん、どうかした?」
「いえ、夕餉の仕込みのことで聞きたいことがあって来たんですけど…。さっきそこで主さんとすれ違ったんです、なんていうか、すごく泣いてるようで…何かあったんですか?」
立ち上がった俺に驚いた脇差はまあいいが、光忠、お前はその腹の立つ笑顔を俺に向けるのをやめろ。…審神者の部屋はどこだ。
「いってらっしゃい。ちゃんと謝るんだよ。じゃあ堀川くん、僕たちもお勝手に行こうか」

「…っう、ずびッ……も〜〜…、っ」
「……おい」
「…ッ!?………」
部屋の隅で縮こまっていた背中が肩を大きく跳ねさせた後、静かになった。人が泣いている時はどうすればいいんだ、謝るだけでいいのか?部屋に入るのも気が引けて、結局畳を踏むのはやめた。
「…振り返りたくなかったらそのままでいい。……悪かったな…」
「………」
鼻をすする水音が聞こえただけで審神者は何も言わない。待てども待てども返事はない。俺は焦りで無意識に眉間に力が入っていた。本当、どうするんだ。
「別に…泣かせるつもりはなかった。あんたが気に入らないんじゃない。力は貸してるし必要以上に構ってくれなくていいと言っているだけだ。何が不満なんだ…」
「…ど、どうしても大倶利伽羅くんと仲良くなりたかったんだけど、ごめん…」
あんたは悪くないだろう。やっと振り向いた審神者の目元がほんのり赤くなっていて、これ以上ないほどの居心地の悪さを感じた。加えて丁度涙の粒が溢れて畳にシミを作るところを見てしまった。もう本当にこれより上はない。前に短刀が遊んでいて何か物を壊した時があったがあいつらもこんな気持ちだったのだろうか。
「〜〜…っ、好きに、しろ」
「え?」
「…俺は刀の扱いしか知らないから、人間の女との接し方は分からない。もうなんでもいいから泣き止んでくれ」
「喋ってくれるの?」
「…ああ」
「…くりちゃんって、呼んでもいい?」
「………はあ…勝手にしろ」
「うん…へへ、勝手にする…」
まだ目は潤んでいるが笑っているのでとりあえず大丈夫だろう。どうせどこへ行ったって光忠に見つけられて質問攻めにあうだろうから暫くはここにいた方がいい。袖で乱暴に涙を拭う審神者を止めるのはついでだからな。