今日も今日とて一時間半。しかし今日の神様はこの前の演練であまりのかっこよさに見惚れてしまい、その日から来てくれるのを密かに心待ちにしていた彼だった。
もちろんその演練の後惚けていたことを歌仙くんにしこたま怒られたよ。
「山姥切国広だ。……なんだその目は。写しだと言うのが気になると?」
「?」
「………」
「………」
「…写しとは会話もしたくないということか」
「うつし?」
「…ッ、あんたもそうやって俺を比べるのか…!」
「え、うつしってなに?」
「は?」
「え?」
ん?
淋しげに瞳を揺らしたり、ぎりっと睨んできたりと忙しない彼についていけない。審神者になってまだ日が浅い私には業界用語なんて分からないから、もっと噛み砕いて言ってほしい…。しかし彼は拍子抜けしたように小さく口を開けて私を見ているだけで、教えてくれそうにもない。
ああ神様、あどけない表情がとってもお可愛らしいです。
それからどちらも口を開くことなく数分。私の言葉を最後にキャッチボールが途切れたのだから今度は向こうから投げてくれよ、と思いつつ気まずさにもじもじしていると実は最初から隣にいた私の近侍が声を発した。
「…駄目だッ!見ていられない!君の人見知りを直すために黙っていたけどそもそも会話が噛み合っていない!なんでどっちも黙ってるんだ!」
「だ、誰だ…」
「もう人見知りとか直さなくていいよー…」
歌仙くんがこんなに早口でまくし立てるのを初めて見た。
しかしな、歌仙くんよ。これは山姥切くんにも非があると思うわけ、私は返事待ってただけなんだから。
歌仙くんは狼狽える山姥切くんの問いにすうっと息を吸い込んで、一息に応えた。
「僕は歌仙兼定!写しというのは既存の刀剣を模して作られたものだ!だからあれほど実装されている刀剣達のことを勉強しろと言っただろう!」
「歌仙くんおこなの?ごめんね?」
「正しい日本語を使いなさい!」
「…ぷんすこ?」
「そうかそうか…今日の夕餉は主の嫌いなものフルコースがいいんだね。分かった」
「ガチぎ、れ………怒ってるね、ごめんね」
「よろしい」
「………」
あ、山姥切くんを置いてけぼりにしてしまった。私たちのやり取りを黙って見ていた彼に向き直る。歌仙くんのおかげで緊張も解れたし、今の私は文句無しに自然に笑えているはずだ。
「皆のことよく知らなくてごめんね。でもよければここにいてほしいです、よろしく!」
「…あんた、山姥切を見たことは」
「えー…や、ないの。ごめん」
「……そうか」
目を伏せた山姥切くんは心なしか安堵しているようだった。そう言えばこんのすけがコンプレックスこじらせ男士だって言ってたなあ、こういうことか。
「私こんなにかっこいい人が来てくれて幸せです」
「かっこいいとか、言うな」
「溢れ出るイケメンオーラには抗えぬものよ…」
「いけめん…?」
「かっこいいってことだよ。山姥切くんもっとこう、強気でもいいと思うよ!今日から誰がなんと言おうがお前の最初の山姥切は俺ですけど?ってスタンスでいこう。あとね、歌仙くんと兼さんに先生してもらうといいよ、兼定ズの図太さすごいから」
「はあ?」
「すみません」
「………」
あ、山姥切くん今ちょっと笑った。ぽわんと花が咲いたみたいに笑うものだから不覚にも顔が熱くなりそう。
「あ……あと仲良く、してほしい!私こんなだけど」
「…俺で、いいのか」
「?仲良くしてくれるの…!?」
「少しだけ、な」
ああ!また笑った!
無意識に笑顔になっていたのかすぐにはっと気付いて恥ずかしそうに布で顔を覆ってしまった。ぎゅうっと布を握りしめる手が、少しだけ見えているきゅっと力の入った唇が。私より背の高い男の人なのにもう何もかもが可愛い山姥切くんのせいで、おなかの奥の方からきゅうっと何かが湧き上がってきそうな感覚は暫く止まりそうにもないなあ。