「ボス、…結婚、するんですか。」

あたしは、密かにボスが、好きだった。
ヴァリアーに入った頃に、一目惚れして、そっからずっと好き。恐いし厳しいけど、裏側に優しさがあるボスが大好き。
でも、思いを伝える事もなく、部下として、ちょくちょくボスに絡みながら過ごしている日々。

そんな中、
急に聞かされたお話。

「嗚呼。」

ボスは、そう一言だけ返事をして、あたしが持って来た書類に目を通す。

おめでとうございます、という言葉を飲み込む。
本心なんかじゃない。
そんな言葉なら、ボスもいらないだろう。

「あ、の…お相手は、」
「ボンゴレと敵対関係にある巨大マフィアの令嬢だ。」

立っているので精一杯だった。
ボスが結婚しちゃう、なんて事実、認めたくなんかない。

「もう帰っていいぞ。」
ボスは、書類を確認し終えて、顔をあげた。
「、失礼します。」
「…姫。」
部屋を出ようと、ドアノブに手を掛けたら、ボスに声をかけられた。
「式には絶対来い。」

返事はしなかった。
厭、できなかった。
泣いてしまうかもしれなかったから。


それでも結婚式はやってくる。

ヴァリアーのボスの結婚式にヴァリアーの幹部が参加しないのも、いかがなものか、とかなんとかで、あたしは、ベルに半強制的に連れてこられた。

「ベル、あたし帰りたい。」
「だーめ。つか姫もさ、一言お祝いの言葉ぐらい言ってやれば?」
「だって本心じゃない。」
「嘘でもいーから。」
「ほんと?」
「まじ。」
「…。」
「思いっきり笑顔で。」
「…。」
「ボスがいなくても大丈夫です、みてーな顔で。」
「大丈夫じゃない。」
「だから、さっきも言ったじゃん。嘘でいーって。」
「お嫁さん綺麗。」
「話し逸らすなバカ姫。」
「ベルのバカ。あたしの気持ちしらないくせに。」
「知ってるからこそムカつくんだよアホ。」
「どういう意味よ。」
「知らねー。ほら、ボスあそこにいるから。行ってこい。」
「…。」


隣に立っているお嫁さんは、マリー、と呼ばれていて、笑顔が眩しい人だった。とても綺麗だった。スラっとしてて、上品で、本当に素敵な女性だった。ちょうど、そのお嫁さんにも挨拶に来てる好青年がいて、あたしはその間にボスのもとに向かった。
「ボス。」
「姫か。」
「あ、の。ご結婚、…」

嘘でもいい。
ベルはそう言った。
ならば言おう。
今からあたしは嘘をつこう。
とびきりの笑顔で。


「…おめでとうございます。」

「嗚呼。」
なぜだかボスは少し寂しそうな顔をした。
だけどすぐにいつものボスに戻って、あたしの髪を撫でた。
「無理矢理来させたみたいで、悪かった。」
そんな顔をして、言わないで。
これ以上彼を見てると、泣いちゃいそうだったから。

あたしは、作り笑顔で逃げるようにその場を去った。



「ベルー…」
「言った?」
「言った。褒めて。」
「ん、偉い偉い。」
「やばい。泣く。」
「泣いてもいーんじゃね?」
「やだ。…みっとも…な、いじゃん、。」
「しばらく1人にしといてやるから。思いっきり泣いとけ。」

そう言ってベルは行ってしまった。


無意識に涙がこぼれた。
あたし、こんなにボスが好きだったんだ。
気持ち、伝えとけばよかった。
そんなこと、今更遅いけど。
大好きなのに。こんなに好きなのに。
涙で目の前が霞んだ。


「…ボ、ス?」
ふと、誰かに抱きしめられた。あたしは反射的に一番逢いたい彼の名前を呼んだ。

「俺のいねえところで泣くな。」
頭の上から声がする。
「ほ、…んとにボス?」
そうであったらいいな、と期待を込めて。
「てめえは、俺がいないと駄目だろ。」
ほんとに、
ほんとにボスだ。
あたしの大好きな、
一番逢いたかった人。
でも、
「ボス…式は、?」
これだよね。
だって今日は、XANXASの結婚式。
「説明してる暇はねえ。が、まあ簡単に言うと、マリーも今、俺と同じ事をしてるはずだ。」
「どういう意「一番好きな奴んとこ行ってんだよ。」
「え、?」
「相変わらずバカだな。まあ、いい。姫。」
「は、はいっ?」
「幸せにする。俺と結婚しろ。」


泣いちゃいそうだよ
(嬉し涙は、)
(甘くて素敵な愛の味。)



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