逢いに行けない。
願いごとが増えるから。
嘘をつけない。
好きだから。

「今夜は、…あの人か。」
あたしは、ヴァリアーのボスであるXANXASの、夜の相手、まあいわゆる娼婦ってやつだ。
相手は、あたしを買い、あたしは自分を売った。
それだけのハズだった。

でもあたしは、彼に恋をした。
この世界で生きる掟として、客に惚れるなんて、もってのほかなのに。
「いくらこの世界のトップになったからって、恋愛感情だけは持っちゃ駄目。」
いつもそう教えられてきた。
だからあたしも、夜の頂点に立った今、恋なんて許されるわけもなく。
この気持ちに嘘をつくしかなかった。

「明日も来い、」
「わかったわ。」
いつものように、体だけの商売が終わる。XANXASは、気だるげに、ブランデーを口に含む。
ただ、それだけの日々。
ただただ、愛しい日々。

帰りの支度を整えて、玄関に向かう。この時だけは、何故かいつも、彼が見送りにくる。
「XANXASは、一応客なんだから、見送りなんてしなくていいのよ?」
「俺の勝手だろうが、」
「こういう時は、紳士なのね。」
「いつも、だろ。」
「じゃああんなに激しくしないでちょうだい?」
くす、と笑って、あたしは彼の返事も聞かず扉を閉める。
この会話が、最愛の時。
唯一、商売絡みじゃなく、あたしを見てくれる時間。
これ以上貴方といると、欲張っちゃうから。
言えない。
愛してる、なんて。
所詮あたしは、体だけの関係なんだから。

本当は、今夜も行くはずだったけど、今日はあいにく女の子の日。
一応XANXASに、メールを送る。

ぱたん、と携帯を閉じる時、ふと寂しくなる。
きっと彼はあたしのかわりなんて、たくさんいるから、今夜は別の人と過ごすんだわ。
そう、あたしのかわりなんて何人もいるから。
♪〜…
シン、とした部屋にいきなり携帯が鳴り響く。
着信:XANXAS

えっ。
素直にびっくりした。
正直、出たくない。
なんなんだろう、一体。
「も、しもし。」
「おい姫、今すぐ来い。」
「あのねえ、…メールにも書いたけど、女の子の日がきたか「関係ねえ。」
「!ちょ、…少しはレディーの体をいたわりなさいよ。それにあたし以外にいくらでも代わりがい「ヤるために来い、なんて言ってねえだろうが。」
携帯越しに、彼のため息が聞こえる。
「…逢いてえんだよ、」
照れ隠しの咳払いと共に、
言わせんなカス、とつぶやく彼の声がした。

逢いにいくね。
(どうか彼に、)
(この心臓の音がバレませんように。)



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