着々と縁談は進む。あたしの知らないところで、極秘に。 これでいい。これが今のあたしに出来る最大限の方法。 あの日から、自分に言い聞かせてきた。XANXUSとは、結局何も話さないまま、喧嘩したまま、自分のファミリーの本部へ帰ってきた。少し、心残りだったけど。XANXUSからは何も言ってこないから、あたしたちの関係はこんなもんか、と寂しくなった。 縁談が正式決定する日。 あたしは初めて、婚約者の顔を見ることが出来る。複雑な気持ちだった。嬉しくはなかった。 本当にこれでいいの? その思いが、何度も脳裏をかすめる。あたしが本当に結婚したい相手は、別にいるんじゃないの。ファミリーのため、とか言って逃げてるんじゃないの。言い訳作ってんじゃないの。 つきない苦悩。でもここまできたからには、もう後戻りは出来ない。 手荷物を持って、部屋を出る準備をする。このままでいいのかな、もう二度と彼とは会えないのかな。最後にせめて、言いたかったな。本当の気持ち。でも、むこうがなんも言ってこないって事は、それまでだ。もう一度、部屋を見渡して、深呼吸をする。ここを出て、婚約者の元へ行けば、正式に結婚が決まる。みんな、それを望んでる。行かなくちゃ。期待を裏切るようなことはしちゃ駄目。 そう、あたしが覚悟を決める一瞬まえに、部屋のドアが荒々しく開いた。 「…ざ、んざす…」 なんで 彼が ここに? 「行くな、」 …え? 行くなって…婚約者の、とこに? 「なに、…いきなり。」 焦っちゃ駄目。あたしは、XANXUSの彼女じゃないし、XANXUSはあたしの彼氏じゃない。しっかりしなくちゃ。あたしの勘違いで終わる。 「あたし急いでるから、」 彼の横を通り抜けようとしたら、腕を掴まれた。 「行くな、つってんのがわかんねえのか。」 「XANXUSには…関係ないじゃん。」 なんで今さら止めんの。なんでこんな時に来るの。揺れる。このまま、XANXUSの元へ行けたら、どんなに幸せか、どんなに嬉しいか。 「関係なくねぇ」 「ない!」 「何でだ」 「…彼氏じゃないじゃん!」 「じゃあ、なればいい」 なんで、そんな惑わせるような事言うの。「俺はてめえが好きだ。」 え、? 「他の奴と結婚なんて許さねえ。」 いきなりあたしの腕をつかむ彼の手が離れた。 「俺と結婚しろ。」 あたしのさっきの覚悟は、見事に崩れていく。ファミリーのため、なんてきれいごと。あたしは、自分の幸せが最優先のずるい人。でも人間なんてそんなもの。 本当は気付いてた。 欲しい言葉をいつでもくれる、抱きしめてくれる、愛を囁いてくれる、そんな甘ったるい愛よりも。 「姫が欲しい。」 君のこの一言が、あたしの心を震わせる。あたしが求めてた言葉だってこと。 甘い甘い愛の言葉より。君の一言を待ってる。 砂糖<微糖 (でもどうしよ、またパパを困らせちゃう…) (もう話はつけてある) (結婚の?!) (嗚呼。) (……いつの間に) |