「ルッスー…あたし、もう駄目だー。」

あの後、重い空気に耐えられなくなって、走ってこの部屋まで来た。
「姫ちゃんは、よく頑張ったほうだと思うわ。」
あたしの好きなローズティーを注ぎながら、ルッスはあたしの話を聴いてくれた。

「あたし、あきらめる…」
つい感情的になって、涙が零れそうになる。
そんな、あたしを静かに見守っていたルッスが、予想外の言葉を発した。
「あたしが、もし天国にいる桜ちゃんなら、姫ちゃんみたいな子には、ボスを渡したくない、と思うわ。」
いきなりでびっくりした。
純粋に、そんな言葉を掛けられるとは思ってなかった。
「…どういう、こと?」
「そんなちょっとやそっとの事で、諦められるような覚悟なら、諦めちゃえばいいのよ。
そんな子に、ボスは譲れない。…こう思うと思わない?少なくともあたしなら、そう思うわ。」
返す言葉がみつからない。
「…。」
「過去の桜ちゃんも大事だけど、今の姫ちゃんも大切なのは、みんな同じなのよ?」
ルッスが優しく、諭すようにあたしに話しかける。
ローズティーの湯気から香るいい香りが、あたしを包む。
「よく考えてみて?桜ちゃんと姫ちゃん。どっちが有利だと思う?」
ルッスは、手元のカップを弄びながら、あたしに訊く。
「そりゃ、桜ちゃんでしょ。」
だって、なんだかんだ言って、彼女だったんだよ?
彼女だよ?
とっても素敵な。
「あたしは、そうは思わないわよ。桜ちゃんは、たしかにボスが溺愛してた彼女だけど、それは、"過去の記憶"でしかないの。でも姫ちゃんには、"今とこれから"がある。」
「…」
「きっとこんなんじゃ、桜ちゃんも、天国で悔しがってるわよ。」
「…」
「まだ、出来る事はあるんじゃない?」

ルッスのこの一言で、あたしは考えが変わった。
たしかにルッスの言う通りだ。
桜ちゃんとは、思い出、なの。
新しい思い出を残せるのはあたし。

今までなよなよしてたあたし、バカみたいだ。
「…ルッス、ありがと。」


どうせやるなら、
とことん、
思いっきりやってやる。



あたしは、ローズティーを一気に飲み干した。


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