「やっぱ、ボスと付き合うのは無理。」

あたしから、好きって言っといてあたしから、拒否るとか。さいてー。

うん。
わかってる。
でも、いくら好きでも、初めて好きな相手に抱かれた幸せな夜に、別の女の名前を寝言で言われたら、誰だって嫌でしょ?
あたしは駄目なんだって思うでしょ?
それと同じ。
桜ちゃんが悪いなんて言わない。あたしが、桜ちゃんに勝てないだけ。

「いきなり、なんだ。」
少し混乱した表情であたしを見るボス。
「いきなり、なんかじゃないです。だって、あたし昨日ボスに好きって言っ「あ?」
あ?って言われても…。
「てめえ、昨日此処に来たのか。」
えっ、
そっから?
いくら酔ってたとは言え、そんなことまで覚えてないの?
「ほんとに覚えてないんですか?」
「覚えてねえ。…」
まだ頭痛がするのか、ボスは顔をしかめる。
あ、
この表情も好き。
やっぱり好き。
大好き。
こう言う時に、本当に寂しくなる。桜ちゃんより、あたしが先に出会ってれば。
…それでも未来は、かわらないかな。
「…一つ訊いていいか。」
ふいに,ボスがあたしを見つめ、言った。
こくん、と頷く。
「俺は、…てめえを抱いたのか。」
決してあたしから、目を逸らす事なく、ボスは静かにあたしの返事に耳を傾けているみたい。
「…、はい。」
寂しい言葉の名残と共に、しん、と部屋が静まる。
ボスは、
眉を顰めている。
そして、静かに、少し辛そうに呟く。


わりぃ…、


ボスが謝るのなんて、10年に一度あるかないか、なのに。
彼はたしかにそう、つぶやいた。


その言葉は、
どういう、ごめん?
なんの、ごめん?
誰にむけた、ごめん?
どうして謝るの?
そして、どうして、そんな、
辛そうな顔をしてるの?

その言葉の意味を理解するには、もう少し時間がかかりそうです。




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