ボスが好き。
そう気付いて、どれくらい経っただろう。いつの間にか、片道通行のこの想いにも慣れて、姿をみるだけで満足だった。
たんたんと日は過ぎる中、ルッスと部屋で、他愛もない話をしていた時。
「姫ちゃんは、今のままでいいの?」
「な、‥いきなりどうしたの」
いいって、何が?って感じ。
「ボスとの事。」
あ‥その事か。
「何もしないで、現状に満足してるなんて、姫ちゃんらしくないわ。」
あたしらしくない。
あたしは、どうすればいいんだろう。あたしが何か働き掛けたところで、何か変わるんだろうか。
「わかってるよ。…ただ、どうすればいいか、わかんないだけ。」
「わかなくて当たり前よ。焦っちゃ駄目だけど、それ以上に諦めちゃ駄目。自分と誰かを比べる必要はないのよ?」
比べる必要はない。比べたくなくても比べられるんだもん。
それでもあたしは御礼を言って、ルッスの部屋を出た。

別にこのままでいい。そう思ってた。

「姫、XANXASのとこにこの書類持って行ってくれねぇかぁ?」
「あ、いいよ。」
「悪ぃな、」
「全然!行ってきまーす」

ボスの部屋に着き、部屋をノックする。この部屋のまわりは、空気が厳かな気がする。
「ボス〜、書類です。」
「入れ」
部屋に入ると、ボスはソファに腰掛けてワイングラスを片手にくつろいでいた。
「あ、休憩中にすいません。」
ぺこりと頭を下げる。
チラッとこちらを見つめるボス。その瞳は普段より何倍も優しかった。
あ、この人、若干酔ってる。
直感した。なんか、酔ってると、いつもより色気が2割増し。正直、心臓バクバク。
シャツなんかもはだけちゃって、エロい。なんか雰囲気がエロいぞっ。ずっきゅーん。
書類をボスに手渡す。
目のやり場に困り、思わずワイングラスをみつめる。
深い葡萄色で、綺麗だった。
「飲むか?」
え、えええええっ!?
ボス、酔ってるからって、それは駄目!期待してしまう!!
「いいですっ、」
「そうか。」
これ以上、心臓もたない。そう考えたあたしは、部屋を出ようとして、ドアに目をむけた。
「姫、なんか喋れ。」
「えええっ。なんであたしなんですかぁっ!」
ボスが酔ってるとわかっているから、少し気が楽。
「てめえの声は落ち着く。」
嘘、楽なんかじゃない。
どきどきが止まらない。
いつもはこんな事言わないから。ボスは、酔うと口説きに入る癖があるのか。

いつもとは違う雰囲気と、この環境に流されて。ルッスの言葉を思い出して。

あたしの中で、

「ボス。」
「ん、」

「桜ちゃんの代わりでもいい。
好きなんです。」




なにかが崩れた。









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