次の日から、あたしは普通の、いつもと変わらない姫、になることに専念した。そしてそれは、大して難しい事じゃなかった。 ボスもあたしがここにいていいって事、認めたんだし、あたしがいろいろ悩んだって、何も変わらないし。変わったのは、ベルがちょっと優しくなった事ぐらいかな。なぜかあの一件の後、ちょっっっぴりだけ優しくなった。 そして、あたしは無意識にボスを避けるようになった。 好き。 だからもう嫌われたくない。 そう思っての事だった。 「姫、マーモンの部屋でゲームするけど来る?」 いつものようにベルに誘われ、もちろん行く気満々だったあたしは、 「もちろん!」 と、返事をした。 あ、でもスクアーロに出す用の資料、持ってくんの忘れてた! 「ごめん、先行ってて。すぐ行くから!」 「ほいほ〜い」 忘れっぽいな、あたし。そんな事を考えつつ、あたしの部屋へ戻る長い廊下を小走りに歩く。 「あ、」 ボスが目の前の廊下から歩いてくる。やばい。…今は避けては通れない。 うつむいて、早足に歩く。どうか、どうか、何も起きませんように。 そんなあたしの願いは儚くも散った。 「おい、」 「なな、なんでしょうかっ」 目線を下げたまま、なるべく距離を保って、返事をする。あたし、動揺しすぎだって。 「こっち向け。」 ああ、なんて残酷な人。 あたしがボスの燃えるような、紅い目に見つめられたら、惚れ直しちゃう事ぐらい、わかってるんでしょ?ああ、もう嫌。なんでこんなかっこいいの。なんでこんな澄みきった綺麗な目をしてるんだ、ボスは。 「なんでしょう」 ボスの瞳にとらわれたまま、あたしは目をそらさずに訊いた。 「俺を避けてるつもりか。」 「え、」 避けてるの、うん。だってこれ以上余計な事して嫌われたくないし。 「カスの分際で俺を避けるなんていい度胸だな。」 「…だって嫌われたくないんだもん。」 あ、ついタメ語。 つい本音。 「はっ。てめえは正真正銘、馬鹿だな。」 「…馬鹿にしないでください。」 ボスは再び、あの瞳であたしをみつめる。あたしはそれを見つめ返す。…負けちゃいそう。 「てめえをボンゴレに返すのを見送ったのは何故かわかるか。」 「…わかりません。」 そう言うと、ボスは呆れた顔をして、まぁいい、と呟いた。 「さんざんヴァリアーで働いてもらう。」 「…へっ?」 「覚悟しとけ。ついでに、」 口にジャムついてんぞ、最後にボスはそう言って鼻で笑うと、歩いて行ってしまった。 ボスがあたしに普通に接してくれた事に驚くと同時に、すごく嬉しかった。また、好きになった。やっぱりあたし、ヴァリアーが好きなんだ。よし!頑張る!任務も、全部!もう、くよくよしない。そう心に決めた。 明日からもまた、頑張れる気がした。 |