ヴァリアーに来て、2週間がたった。大分任務にも慣れて、屋敷を迷子になる事もなくなった。
「悪いが今日は、姫一人で任務に行ってくれねぇかぁ゙?簡単な任務だからよぉ」
あ、やっと一人で任務を任された!!それだけで、ちょっぴり嬉しかった。
だから___
「…痛っ、」
ちょっと頑張りすぎて、任務の帰り、怪我をしてしまった。ほんと、あたし、まだまだだね。でも、任務は完璧にこなしたから、大丈夫!ちょっと足くじいただけだし、うん。
…、…。
た、立てない。
…ちょっとやばいかも。ううん、ちょっとじゃなくて、すごいやばい。足くじいて立てない、だけならまだいい。
でも今、
背後からすごい殺気を感じる。
まさか敵?どうしよう。今この状態で攻撃されたら、結果はもう目に見えている。しかも、この殺気はすごい威力で。並大抵の人が醸し出す殺気とは、比べ物にならない。そんな人に攻撃されたら、あたしひとたまりもないよ!!やばいよ!!
「こんな所で何してんだ、カス。」
あああさらに殺気が増幅したああー…ってあれ?!
「ボ、ス!」
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには隊服を纏ったボスの姿。ものすごい剣幕であたしを睨んでいる。
「任務が終わったんならさっさと戻れ。」
そう言って、あたしの方に近付いてくる。なんでボスがここにいるのー!でもまぁ、…敵じゃなくてよかった。
「えへへ…すぐ戻りまーす、」
足は、なんとか引きずって帰ればいいよね。さっきより痛みは引いてるし。それより、こんな所で足くじいてた、なんて知られたくないから、あたしより先にボスが帰ってくれればいいんだけど。
「…はぁ。」
ちっ、と舌打ちしてあたしを抱き上げるボス。えええ?!何が起こった?!あたし殺されんの?消されんの?え?!
「あの!…かっ消されるなら、景色のいいところがいいです、!」
そこあんまり問題じゃないけど!やっぱ最後は、こんな山奥では嫌だ。嗚呼、早すぎるあたしの人生。本日をもって、幕をおろすことになり「ドカスが。てめぇなんざ消す価値もねぇ。」
そう言って、あたしを抱き上げたまま、スタスタ歩くボス。
「じゃあ、なんで…」
なんでボスに抱っこされてるんですか!あたしは!
「歩けねぇんだろ?」
っはん、と鼻で笑われて、ボスはあたしをあざ笑うかのように見る。
「え?!なんで知ってん「ちょっとは黙っとけ。」
あ、はい。すいません。…でも黙ったら、この心臓の音がバレちゃいそうで怖い。ちょっと!なんでこんなドキドキしてるわけ?!意味わかんない…っていうかボスかっこいい…なんでこんな綺麗な目してるんだろ、ほんとに素敵っ…ってあれ?!おかしい。ボスに見とれてる場合じゃない!
「っちょ、すいません!あたし大丈夫なんで!降ろして〜」
必死に抵抗。必死にバタ足。重い、とか思われたくないし!
「言われなくても降ろす。」
あれ、まじで降ろすんだ。って思ったのもつかの間。大きな道に止めてあった一台の大きな車にあたしを放り込んだ。
「出せ。」
車の運転手にそう言って、あたしだけを乗せて、ボスはドアを閉めようとした。
「ボスは?」
閉める前にボスに言った。
「あ?」
「ボスは乗らないの?」
なんであたしだけ乗せて、帰るんだろ。あたしと車に乗るの、嫌なのかな。
「俺がてめぇと同じ車に乗れると思うか。」
ボスはドアの縁に手をかけ、あたしを上から見つめる。やっぱ、そうだよね、あたし勘違いしちゃ駄目だよね、ボスはあたしの事、嫌いだろうし。一緒の車なんか無理だよね。…そっと目をふせる。やばい、わかってた事だけど泣きそう。
「…、俺は他に行く所がある。」
だから泣くな、そう言って、ボスは、パタンとドアを閉めた。車が発進する。
窓から流れる景色を眺めて、思った。
あたし、きっと
恋に落ちた。


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