「姫ちゃん、ある程度荷物片付けたら、お茶しない?よかったら、リビングルームに来て頂戴。もう用意してあるから。」
ドアの外からルッスさんの声がした。
「すぐ行きまーす!」
あたしはそう叫んで、ベッドから飛び起きた。思ったよりヴァリアーって、悪いところじゃないみたい。どこか不安だった気持ちは徐々に消えていった気がした。

「姫は意外に弱いんだな」
「ルッスが異常に強いんだよ!」
「あら、あたし?うふ」
「ゔぉ゙ぉい…マーモン!金のコイン貯める前に、ライフポイント貯めねぇと、もうじき死ぬぞぉ?」
「ししっ、馬鹿な奴」
「ベル、そんな余裕こいてると、痛い目見るよ。僕を馬鹿って言った罰だ。」

あの後、一緒にお茶をして、お話をして、夕食を食べて、ボス以外の幹部はみんなを呼び捨てで呼ばせてもらう事に。そして今、みんなで食後のゲームをしている、という次第。
「うっわ。後ろから王子を攻撃するとか。マーモン、刻まれてぇの?」
なんか今、幸せかも。ふとそう思った。ボンゴレ本部からここまで送られてきた時は、最悪だって思ったけど、実はヴァリアーのみんなって、優しいし、家族みたい。そういう眼差しでみんなを見てた事に気付いたスクアーロが、あたしに気使って、
「姫、今日は疲れただろぉ゙…もう休んでいいぞ?」
って言ってくれた。
「ん-…じゃあ今日は部屋に戻るね、」
初めて来たところだし、結構自分の知らない間に疲労がたまってたりするし。
「あら、そう?部屋まで一人で行ける?」
「王子が一緒に寝てやろうか?ししっ♪」
「大丈夫!ありがとね。では、おやすみなさい」
「おやすみ、」
みんなとおやすみを交わして、あたしは部屋に戻ろうとした。
そして案の定、迷った。
「……ここどこ。」
見渡しても見渡してもどこか暗い雰囲気の厳かな廊下。さっきから同じところをぐるぐるぐるぐる回ってる気がする。スクアーロたちのいる居間にさえ、戻りたくても戻れない。こんなことなら、ルッスに部屋までついて来てもらえばよかった。
「ここはどこ?!私はだれええええ!」
お馴染みの台詞を口にし、あたしはその場に座りこんだ。無駄に動かない方がいいと思った。
「誰か-……」
そう呟いた瞬間、目の前の大きな扉が開き、現れたのは…
「ボ、ス…?!」
うわあああー、やってしまった。ここはボス様の部屋でしたか!
「さっきからうるせぇ。」
「…ごめ、んなさい。」
「ここで何をしてる」
「あの…」
「…」
「迷子になって」
「カスが。」
呆れの溜め息をついたボスは、あたしを置いて歩きだした。
「ついて来い」
どうやら連れて行ってくれるらしい。ボスって案外優しいのかな。あたしの一歩前を颯爽と歩くボスの背中を見て、ちょっとそう思った。そうだ、桜ちゃんの事訊いてみようかな…。
「ボス、」
「……」
「…あたしに似てる、桜ちゃんって子は」
「必要最低限の事以外は俺に話しかけるな。」
びしっ。
ああー、一瞬でも優しい、とか思ったあたしが馬鹿でした、はぁ。明らかに嫌われてるよね、あたし。そう思うと少し、胸が痛んだ。
「さっさと自分の部屋ぐらい覚えろ」
あたしを部屋の前まで連れてきてくれたボスは、そう言って、また来た道を戻っていった。
「ありがとうございましたーっ」
その後ろ姿にむかって叫んだけれど、これといった反応はなかった。ふぅ、と一息ついて、あたしは自室に入り、寝る支度を整え始めた。“桜”って子の正体が気になりつつも、まずは環境に慣れる事から始めなきゃ。明日から本格的に始まるここでの生活に、期待と不安を抱えながら、眠りについた。



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