「久しぶり、ボス。」

2年ぶりに、ここへ帰ってきた。

「姫か。老けたな。」

「大人っぽくなった、って言ってください。」

相変わらずボスはかっこいーねと心の中でつぶやく。言ってなんてあげない。
でも確かにボスは二年前と変わらず、いや、二年前より確実に大人の色気と雰囲気を増して、ますますかっこよくなっている。



━━━━…二年前。

「おい姫。任務だ。日本へ行け。」
「何すればいいの」
「スパイだ。」
「はーい」
「二年間。」
「ん?」
「任期は二年だ。」
「……、は?」

「上からの命令だ。準備が出来次第すぐに向かえ。」

二年間???!!なんですと??!?!!と反論する隙も与えさせないボスの命令。
納得いかないけど、反論はこの人にも、この世界にも、通用しない。

私はこの人が好きだ。
想いは伝えていないけれど、態度でアホでもわかる、とベルに言われた。
しようと思えば、好き、と伝えることはできるけどそれをしなかったのは、玉砕する覚悟がなかったから。

でもこの際、玉砕する良い機会だし伝えちゃおう。フられても、二年もあれば癒えるでしょ。

思うが早いか私は書類を眺めるボスに声をかけた。


「ねえ、ボス。」
「なんだ」
「好き。」
「、あ?」
「私ボスが好き」
「おまえ、自分が今何言ってるかわかってんのか」
「うん」
「本心か、それ」
「はい。好きです。すっごく。」
「っは…」


あー…
ため息はないだろー!って思ったけどまあ概ね予想通りの反応。わかってる。わかってた。覚悟してたもん。

泣きそうなんかじゃない。
寂しくなんかない。
強がりなんかじゃない。

そう自分に言い聞かせても隠せない心。
やっぱり18の心に、好きな人にフられるという玉砕さを受け入れる器はないのかもしれない。

「し、支度できたら、…すぐ日本向かいます…」

これ以上このボスの鋭い目線の中にいると、寂しさと悲しさに耐えきれなくなって泣いちゃいそうだったから、私はボスの顔もちゃんと見ずに部屋から出ようと、背を向けた。


「姫」

「っ…」

名前よばれたらほんとに泣いちゃいそうだった。返事もできなかった。


「二年後、もう一度今の言葉、聞かせろ」


最後の最後でボスがあんなこと言うから。
私は二年間日本で恋人を作ることもできず、ボスのことを考えてすごす羽目になった。


…━━━━━


でもあんな時の言葉、ボスは覚えてないだろうな。
だから、私はこの二年間の想いを胸に秘めた。
あの頃の私とはちがう。
せめて日本で培ったスキルを活かして、ボスに仕事出来るようになったな、って褒めてもらおうとしたのに。


「おい、他に言うことはねえのか。」

「、え?」

「俺に言うことあるだろ?」

「なんの、こと、だろー。」



な、な、なんで?!
っていうか?!
告白のことかな?!!
えええ?!!
ショート寸前思考回路。

と、と、とりあえずここは何事もなかったかのように切り抜けよう。


「あ、あたし、着替えて荷物整理してくるね。ま、だ、ヴァリアーのみんなに挨拶できてないし…」

「待て。」

「は、話ならあとでまた、「まだ二年前の返事してねえだろ。」


ああ、
この人はなんでまた私の心を乱すの。

「!あ、あれはなかったことに「する、なんざ言ったらかっ消す。」


ああ、
やっぱり私はこの人のことが、


「あの時はお前が任務の前だから適当に流したが、」


二年前なんかよりずっとずっと、


「お前の気持ちがまだあの頃と変わってねえんなら、」



好きになってる




「俺も姫が好きだ。」






(おかえり、あの頃の私)





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