「おめでとうございます、ベルさん。」 「あ、これ。プレゼントです。よかったらもらって下さい!」 「ベル幹部、いつまでも王子でいてくださいねーふふ。」 今日は、かの王子の誕生日なわけですが。 朝起きた瞬間から、ヴァリアーの幹部である彼に、お祝いが殺到しないわけがなく、今日はベルさんは仕事どころじゃなさそうだ。 「あ、ベル先輩。あたしこの仕事やっとくんで。」 次から次へと祝福されるベルさんの仕事の負担を減らすために、あたしは仕事を引き受けた。 「お、さんきゅー。」 ベル先輩は、たくさんの人の相手をするのに忙しいし。 少しでも負担が減ればいいなあ、なんて。 でもまあ楽な仕事ではないから、今日は残業をする覚悟。 「姫は、ベルさんにプレゼントとか渡さないのー?」 あたしの同僚たちは、ベル先輩にお祝いの言葉とプレゼントを渡しに、忙しいみたい。 そんな中、一人の友達にこんな事を訊かれたけど、あたしだって好きでこれをやっているわけじゃない。 ほんとはベル先輩にプレゼントだって買ってあるし、おめでとう、の一言だって言いたい。 けど彼の周りには大勢の人がいて、それを掻き分けてまで会う勇気があたしにはない。 「後でいいかな、」 そんな風に後回し後回しにしていたら、気付けば周りの同僚たちは帰っていて、残業をしてる数人と、書類と睨めっこしてるベル先輩が目に入った。 あ、ベル先輩におめでとう言ってないや。 時計をみると11時。 もうさすがにお祝いで群がる人はいない。 どうしよ、言うか言わないか。 そんなことを真剣に迷っていると、ベル先輩が部屋にいるメンバーみんなに、声をかけた。 「王子も疲れたし飽きたし、今日はもう終わりー。」 相変わらずの王子スタイルで、自分が飽きたら全てを終わらせるという結構傍若無人な対応。 でも、そのベル先輩の言葉であたしたちは動く。 「お疲れでしたあー。」 次々に帰っていく人達から完全に出遅れたあたしは、帰る準備をたらたらとし、ベル先輩の様子を伺った。 ベル先輩はソファに腰掛けながら欠伸をしていて、今にも寝ちゃいそうな勢い。 やばい、今言わなくちゃ。 「あの、…ベルせんぱ、」 この部屋にはもうすでにあたしと、ベル先輩しかいなくて。 どきどき。 あたしの心臓の音が聴こえてしまうんじゃないかってほど。 「んー?」 チラ、とこっちを見て続きの言葉を待つ先輩。 「‥お誕生日、おめでとうございます。」 たったこれだけの言葉に、あたしは今日一日悩まされ続けたのだ。 それにしてはあっけなかったなあ、なんて。 「おっせーよ、馬鹿姫っ。」 ししし、と笑うベル先輩の顔を最後に、あたしの景色は回転した。 ベル先輩に抱き寄せられた。 予想外すぎて、脳内がショート寸前。 ばちばち どきどき ずっきゅん 先輩の鼓動が伝わる。 「え、あ、の。‥せんぱ、」 あたしの言葉は遮られ、さらに強く抱きしめられてもう何も言えない。 「来年は、一番に王子を祝って?」 お誕生日おめでとう。 (来年は、) (起きた瞬間、君が隣にいる関係だから。) ← |