「報告書終わったら俺の部屋に来い。」


あたしが自室で任務の報告書を作成していると、ボスがドアを開けて言いにきた。
わざわざ彼が来るなんて珍しい。

いつもなら、館内の無線を使って、ヴァリアーの基地にいる全員に聞こえるっていうのに、ものすごい勢いで呼び出したりする。
例えば‥「姫、緊急任務だ。5秒以内に行かねぇとかっ消す。」とか。その日オフだったあたしに普通に任務の指令与えちゃうような残忍さ。
そんなことをものともせずするような人なのに、なぜか今日に限ってはあたしの部屋まで。


「わかりました、終わったらすぐ伺います。」

とりあえず返事はしてみたものの、何があるか全く予想がつかないから、その事ばかり考えちゃって、報告書がなかなか終わらない。

30分が経過し、いよいよ飽きてきた。
「‥これでいっか。」

なんとか形になった報告書をスクアーロに手渡しに行くのは後にして、先にボスの部屋に向かう。

「ボス、姫です。」
「入れ、」
「失礼します」

ボスの部屋は相変わらず空気が厳格で、あたしはここに来る度にいまだに緊張する。
何度来ても慣れない緊張感。

しかもボスはソファに深く腰掛け、片手にブランデーまで持っている。威厳威厳っ。

でもあたしの目の前にはおよそこの部屋にふさわしくない物があった。


「ボス…これ何ですか…、?」


「着てみろ。」

あたしの目の前には、紺の生地に、上品な淡い雪のような柄を散りばめた着物があった。
高そうというか、品があるとゆうか、…
とてもじゃないけどあたしにはもったいないような着物。


「いや、…あたしにはそんな、」

目の前の見慣れない着物というものに、若干弱気になる。
これが似合うぐらいの女に、
まだ自分はなれてないんじゃないか。


「…あ?」



ボスの睨みは効果大。
遠い昔に一度やったことのある、着付けをところどころ思い出しながら、あたしはなんとか着物を着ることに成功した。


似合ってるかは疑問。
着方あってるかは不安。
でも、あたしはこの着物の感じがすごく好きだった。


「やっぱ似合うな。」

なんの躊躇もなくそう口にするボスは、あたしの全身を見て、満足したようだった。


「ボス、これ…ど、どうされたんですか。」


いつものボスじゃないでしょ、こんなことするの。 
酔ってるの?
おかしいよ、ほんとに。

なんかあたしがおかしくなっちゃいそ。




「日本で見たとき、お前に似合うと思っただけだ。」




ああ、
やっぱり今日の彼は酔ってる。

いや、あたしが酔ってる?


ボスが好きかも、と感じるなんて。


もっともっと酔わせて
(あなたに)
(溺れさせて。)





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