こうすれば安全だね瞳子姉さんに過保護だって言われて少し緑川から離れてみようと思った矢先、緑川が女と会っていた。
緑川自身はそれを否定してるけど絶対に嘘だ。
けどそれを確認しようと近付くと離れて行ってしまう。
緑川は露骨に俺を避けるようになった。
「あ」
緑川の事を考えながら勉強していたらシャーペンの芯が折れた。
知らないうちに手に力が入ってシャーペンをノートに押し付けていたんだろう。
まったく、明日小テストがあるから勉強しなきゃいけないのに緑川の事が頭から離れない。
それくらい俺は緑川に依存してるんだ。
じゃあ、もし緑川が居なくなったら一体俺はどうなるんだろう。
そんな事を考えながらクルクルとペンを回す。
結局、勉強する気が起きなかったからすぐに寝た。
まぁ小テストは得意な数学だから勉強しなくても満点取れるだろう。
次の日、緑川と一緒に登校しようと部屋に行く。
「緑川ー……また居ないか。」
この頃ずっとこうだ。
緑川は一緒に登校さえしてくれないし、学校でも必要最低限の事しか話さない。
緑川と仲良く過ごしていたあの頃はとても楽しくて大切なものだったんだと今更ながらに気付かされる。
だって今はこんなにも毎日がつまらないんだから。
しかしそれ以上に由々しき事態が起っている。
俺が緑川と共に行動をしなくなってから緑川にアタックする輩が続出した。
今まで以上に放課後に呼び出されたりしている。
まったく、腹立たしくてしょうがない。
「ふぅ、やっと授業終わったー」
「あの…緑川くん、」
「へ?」
「話があるの…いい?」
「あ、うん。」
ほらまただ、緑川が女子に呼び出しをくらっている。
まぁ俺もかなりモテるから呼び出される面倒くささはよく分かる。
一昨日呼び出されて告白されたんだけどあの女子は本当面倒くさくて殴りたくなったな。
さて、今日はもう帰るか。
「あ、基山くん!」
「何?」
え、俺も呼び出し?
勘弁してくれよ、今日は早く帰りたいんだ。
「今日、私達の班が教室掃除担当だから基山くんもやってね?」
……呼び出しよりこっちの方が面倒くさいかも。
それから適当に掃除をした、机運んだり床掃いたり。
けど皆ふざけたりゆっくりやったりで掃除が終わるのはかなり遅かった。
初めは真面目に掃除しろよとか思ってたけど途中からもうどうでもよくなってきた。
掃除が終わった頃、今度は帰るのが面倒くさくなってきて。
それは皆も同じだったようで、教室に残って話す事にした。
「そういえば転校生入ってきたクラスって何処だっけ?」
「確か1組。もしくは2組。」
「結構イケメンだよね〜うちのクラス来て欲しかった!」
話す内容は生徒や先生について。
あとたまに芸能人についても。
俺はあまり喋らず聞き役に回っていた。
「なぁなぁ、最近リュウジってめちゃくちゃモテてるよな!」
いきなり出た話題。
「そうそう!すっごいコクられてるらしいよ。」
「顔いいし優しいもんなー」
「今の時代、ああいうタイプがモテるらしいね。」
さっきまで楽しく皆の話を聞いていたのに機嫌が悪くなってきた。
うるさい、緑川が俺と付き合っている事も知らずに緑川を我が物顔で語るな。
「あっ、…ねぇ、」
「ん?どうしたんだヒロト。」
「もうこんな時間だし帰らない?俺鍵当番だから皆帰るまで帰れないんだよ。」
耐えきれずにそう言うと、皆は荷物を持って帰る準備を始めた。
窓の戸締まりチェックするとか言って、1人教室に残った。
「…………」
するとよく分からない黒い感情が芽生えてきて、俺はおもいっきり机を蹴り飛ばした。
大層な音がしたけど、この時間学校に残っている生徒はあまり居ないし居ても部活中とかだから誰も気付かないだろう。
そして、ふと目に入ったのは今日緑川を呼び出していた女子の机。
俺はとびっきりの力を足に込めて机を蹴り飛ばした。
そして荒い息のまま、呟いた。
「……害虫駆除、しなきゃね。」
その日から憂鬱な登下校が愉快なものになった。
まず朝、誰よりも早くお日様園を出る。
そして登校中の、緑川と仲良い女子や告白した女子を排除した。
徹底的に殴って蹴って、再起不能にしてやった。
誰にもバレない様に路地裏に連れ込んだり、顔見られないように後ろから襲ったり。
次々と病院送りにしてやった。
排除するたび、俺は麻薬に手を出したような、そんな大罪をおかした気分をあじわった。
まあ実際、罪を犯してるんだろうけど。
けど緑川を守るためなら何も戸惑いは無かった。
ついに学校は一時的に休みを設けた。
やった、これで緑川が危険にさらされる可能性が低くなった。
今日から学校が休み、俺は機嫌よく部屋で寛いでいた、すると
コンコン、
誰かが部屋のドアを叩く。
誰だろう、そう思ってドアを開けると。
「………ヒロト、」
「…緑川?」
なんと緑川だった。
まさか緑川が、俺の部屋に来てくれるだなんて。
嬉しすぎて心踊る中、とりあえず緑川を部屋に招き入れた。
「どうしたの?何か用かい?」
笑顔でそう聞く。
一方、緑川は暗い顔をしていた。
「……あのさ、学校で女子が暴力受けて入院する事件起きたじゃん、その被害者が全員俺と関わりある人なんだけど。」
ぽつりぽつりと紡がれた言葉。
「そうだろうね。だって緑川と関係ある女子だけを狙ってやったんだもん。」
「!!??」
俺がそう言うと、緑川は目を見開いた。
「ヒ、ロト、が…?」
俺は笑顔でそうだよ、と答えた。
ちなみに夏休み前の髪の長い女子も俺がやったんだ、とも言った。
すると緑川は硬直して何も言わなくなった。
緑川ってよく硬直するよね。
「緑川。」
名前を呼びながらそっと緑川を抱き締める、こうやって抱き締めたのはいつぶりだろう。
嗚呼、大好き、大好きだよ緑川、やっと触れる事が出来た。
「大丈夫、これでもう安全だよ。」
もう、絶対に離さない。