誰がお前をたぶらかした?


夏休みが終わって2学期が始まった。
学校の休み時間、俺は廊下である女子と話していた。

「だからぁ、明日マキと一緒に映画観に行こうよリュウジ!」

皇マキ。
隣のクラスの女子で、結構仲が良くてよく話す間柄。
少し我が儘な性格だけど顔がいいから男子に人気があったりする。
あとどうでもいいかもしれないけど俺とマキの声は似てるらしい。
で、俺は今、そのマキに映画を観に行こうと誘われてる。

「え、なんで俺が?」
「もともと玲奈と行く約束してたんだけど急に玲奈が無理って言い出してさー」
「なんの映画?」
「今流行りのファンタジー映画だよ。」

そう言ってマキはポケットからチケットを出した。

「あっ!これずっと観たかったやつだ!」
「本当に?じゃあ観に行こっ」
「いいよ!」

初め、誘われた時はあんまり行く気しなかったけど観たかったやつだったから行く気が沸いてきた。
するといきなりチャイムが鳴って休み時間が終わってしまい、俺達はダッシュでそれぞれの教室へ向かった。
俺の教室にはまだ先生は来てなくて、友達にギリギリセーフだな、と言われた。
けど隣のクラスから先生の怒る声が聞こえた。
マキは間に合わなかったんだな、ドンマイ。

次の日、今日は映画の日だ。
早起きして服を選んで、テキパキと出かける準備をこなした。
玄関あたりで理夢に会った。

「おはようリュウジ、こんな早くからどこか出かけるの?」
「理夢おはよう。うん、今から出かけるんだ。…あとさ、ヒロトってもう起きてるかな?知らない?」
「ヒロトさん?あぁ、さっき起きてリビングに来てたよ。今洗面所で顔でも洗ってるんじゃない?」

そっかありがとう、理夢にそう言って俺は家を出た。
ヒロトに女子と映画に行くとかバレたら面倒だから、バレないようにこっそり家を出れてよかった。

それからマキと駅で落ち合って電車に揺られて。
映画館に着いた頃にはもう昼近くなっていた。
そして適当にご飯をすませた。

「そのとき論がね、大丈夫?って言って私の手を引いてくれたの…論かっこよかったぁ。マキ、論大好きっ!」
「へー…」

映画が始まるまでずっとマキののろけ話を聞かされてた。
マキには武藤諭という彼氏がいてこの二人はいつもラブラブ。
ちなみに今日の映画を論にも誘ったが断られたらしい、だから変わりに俺になったわけで。

そうこうしていると、映画が始まる時間になったので俺達は席についた。
そこからすぐに映画が始まって、俺達…いや、観客全員が映画に集中した。

(すごい……)

その映画は本当にすごいもので、ストーリーは面白いしスケールも大きくて観ていて飽きない。
ちょこちょこ入っているギャグシーンに観客は爆笑、マキなんか腹を抱えて笑ってた。
けど主人公の友人が死ぬという予想外のシリアスな展開に観客はしんみりとしてマキなんか号泣してた。
3時間位ある映画なのに、あっという間に終わってしまった。

「超面白かったね!!」
「マキ、最後の爆発するとこすごいビックリした!」
「うんうん!俺は主人公が絶体絶命でまさに風前の灯火!なシーンに一番ハラハラしたな。」
「超大作だったね!マキまた観に来たいなぁっ」

論と一緒に、って付け足したマキにやれやれと俺は苦笑いした。
そこからはまた電車に揺られて駅で別れて、すぐに家に帰った。
映画の興奮さめやらず、お日様園に帰ってドアを開けると、

「おかえり。」
「!!!、」

なんと玄関にヒロトが座りこんでいた。
俺を待っていたみたいだ。
ドアを開けた瞬間、視界にヒロトがいたから勿論驚いた。
でも驚いただけじゃなくて。
その…なんだかヒロトは怒っているようだった。

「緑川。」

立ち上がって、ドアの前で硬直している俺の方へと歩み寄ってくるヒロト。
本能的に何かを感じ取ったらしい俺は、冷や汗が噴き出してきた挙げ句、逃げなきゃ、と言う衝動に狩られた。
だってほら、ヒロトの目が笑ってない。

「ねぇ、今まで何してたの?」

そう優しく聞くヒロト。

「なんだか甘い臭いがするなぁ。」

そう言って俺の髪を葬る。
甘い臭い?もしかして、マキのつけてた香水の臭い…?

「緑川、……女と会ってた?」

そう聞いたヒロトの目はさっき以上に怒っているようで。
鋭い視線に射ぬかれそうだ、なんて思った。
マキは彼氏持ちで俺だって一応ヒロトと付き合ってる、つまり俺達はただの友達でやましい事は何もないんだ。
けど、素直にマキと会ってましただなんて言えなくて。

「…お、男友達と…公園で遊んでた…。」

嘘をついた。
けどヒロトにはバレたらしい。

「普通、朝から公園で遊ぶ?どっか遠い所にでも行ってたんじゃないの?」
「…ちが、」
「お前をたぶらかしたのは誰?」

冷や汗が更にどっと噴き出す。
俺は耐えきれなくって、ヒロトを突き飛ばしてそのまま部屋へと走った。
途中、皆におかえりって言われたけど返事もせずに走る。
部屋に入って荷物を放り投げてベッドに座る。
もう、映画の事なんか頭からすっぽり抜け落ちていた。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -