お前を守るためなのに俺と緑川の間にある微妙な距離はまだ続いていた。
なんとか距離を縮めようとするけど緑川はそれに答えてくれない、なんでなんだろう。
緑川は可愛くて優しくていい子で男女問わず結構人気がある、本人はあまり自覚してないんだけど。
だから、その、恋人の俺としては心配なんだよね。
例えば緑川が無理矢理路地裏に連れ込まれて襲われたりしたらどうしようっていつも不安で。
ま、もしそんな事があったらそいつは殺すけど。
でも緑川は無防備で無自覚でそういう目にあう確率は高い。
だから俺はそうならないように行動を共にして、害虫を排除している。
それなのに、こんなにも大切に思っているのに、なんで緑川は変わってしまったのかな。
「はぁ…」
無意識に口から溢れていたため息がどうやら瞳子姉さんの耳に入ったらしい。
「どうしたのヒロト?リュウジの事?」
「…よく分かったね。」
「ヒロトの考えてることなんてお見通しよ。で、何があったの?」
もしかしたら姉さんには緑川が変わった理由が何か分かるかも、と思って話しかけてみた。
「ヒロトは少し過保護な所があるのよ、リュウジは守られるのが子供扱いされてるようで嫌なんじゃないかしら。」
「でも俺が緑川を守らなきゃ…」
「ヒロトが思っているよりもリュウジは大人よ?歳だって離れてないし。まぁ、注意力がたりない所もあるかもしれないけどね。」
そうは言ってもやっぱ心配で仕方ない。
でも確かに俺は緑川を子供扱いしていたのかもしれない。
俺が守らなきゃ、という気持ちが強すぎたのかな。
けどその気持ちは使命感の様なもので、どうしても緑川を野放しには出来ない。
多分、緑川と仲良い奴を全員殺して緑川を俺の部屋に閉じ込めたりでもしない限りこの不安が拭われる事は無いだろう。
けどそれは俺の勝手な考え。
ちゃんとそう分かってるから行動に移さないんだ、利口だろ?
「はぁ…」
これで本日二度目のため息。
だって辛いんだ。
緑川を守るためにやっている事が緑川を嫌な気持ちにさせて、その結果俺達の間に微妙な溝が出来ただなんて。
緑川を守るためなのに、こんな結果になるなんて。
「まぁそんなに深く考えない方がいいんじゃない?リュウジも子供扱いされて拗ねてるだけよ。」
そう言われて少し安心した。
胸に突き刺さっていた不安が少し溶けて無くなった気がした。
そうだよね、少したったらまた前のような二人に戻れるよね。
「ありがとう、姉さん。」
「いいえ。でも本当に私に感謝しているんだったら卵買ってきてくれない?」
きれちゃったのよ、と悪戯っぽく笑う姉さんから500円玉を渡された。
俺はやれやれ、と重い足取りで玄関へと向かった。
「余ったお金で何か好きな物買っていいわよー」
靴を履いている時にそう声が聞こえた。