もう誰にも触れさせないよ


いろんな事があったけど、明日から夏休みだ。
なんと、夏休み初っぱなからお日様園の皆で韓国に旅行に行く。
お日様園の皆、って言うと大勢に聞こえるけどお日様園の子供の数は結構少ないからそれほどじゃない。
まぁそんなことはおいといてと。
とにかく、明日が楽しみで仕方がない、ビバ韓国!
韓国にはアフロディっていう友達も居るし早く会いたい。
アフロディに色んな所案内してもらいたいな、あと韓国料理を食べ尽くすんだ、それからそれから…
と、1人で黙々とプランを考えていると更に明日が楽しみになってきた。
今日は明日に備えていつもより早めに寝る事にした。

しかし、だ。
韓国に行く当日、なんとヒロトが風邪を引いてしまった。
しかも熱は高く、とても辛そう。

「ケホゴホッ…皆、俺に構わず韓国行ってきて。お土産待ってるから…。」

韓国には行きたいけど恋人が風邪で苦しんでるんだ、行けるはずが無いよ。
それに風邪は百病の長、俺がちゃんと看病してあげないと。

「瞳子姉さん、俺、お日様園に残ってヒロトの看病するよ。他の皆で韓国行ってきて。」
「駄目よそんなの、リュウジとヒロトだけ残して行くなんて…」
「大丈夫大丈夫!俺達もう中学生だよ?留守番位出来るって。ご飯とかも用意できるし、ね?」

結局、俺はヒロトと一緒にお日様園に残る事になった。
お土産楽しみにしてろよ、と荷物を持って園から出ていく皆に笑顔で手を振りながらいってらっしゃいを言う。
皆が曲がり角を曲がるまで、皆の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
…さて、皆行っちゃった事だし、ヒロトの看病するか!
そう思い、足早でヒロトの部屋へと向かった。

「ヒロト、体調はどう……って、え?」

あれ、どういう事だ。
てっきりヒロトは風邪でダウンしているのかと思ってた(さっきまでダウンしてたし)。
けど、今ヒロトは涼しげな顔でベッドに座って雑誌を読んでいる。
…とても熱が有るようには見えない。

「あ、緑川。」

ヒロトは優しい笑みを浮かべながら自分が座っている隣をポンポンと叩く。
隣に座れ、と言う事なのか。
やれやれ、俺は仕方ないから隣に座ってやった。

「で、ヒロト。風邪なんだろ、大人しく寝てないと駄目だろ!」
「ああ、大丈夫。風邪なんてただの嘘だし。」
「………え?」

俺は一瞬耳を疑った。

「韓国行くの嫌だったから風邪のフリしてお日様園に残ったんだよ。緑川も一緒に残ってくれるだろうなーとは思ってたけど本当に残ってくれて嬉しいよ。」
「な…っふ、ふざけんな!!ヒロトのせいで韓国行けなかったじゃん!!最低!!」

だって本当に最低だ。
俺はヒロトが心配で、楽しみだった韓国旅行を手放したと言うのにこんなの酷すぎる。

「大体なんで韓国が嫌なんだよ!俺はあんなにも楽しみにしてたのに…っ」
「いや、韓国が嫌なんじゃなくて韓国に居る人が嫌っていうか…」
「ひと?…え?アフロディ?」

ヒロトはコクリと頷いた。

「…なんだよそれ!!アフロディに失礼だろ馬鹿!!ヒロトなんかもう知るかっ!!」

そう言って俺はリビングへと走っていった。
ヒロトの呼び止める声が聞こえたけどそんなの無視無視。

リビングのソファーに腰を掛け、クッションを抱き締める。
もうヒロトなんか知らない、口聞いてやるもんか。
そう思った瞬間、パジャマから着替えた私服のヒロトがリビングにやって来た。

「緑川。」
「…………」
「ごめんね、だからもう機嫌直してよ。」
「…………」
「ねぇ、緑川、」

ヒロトは俺の隣に座ってきた。
そして俺を抱き締めた。

「俺、お前がアフロディ君と仲良くしてるの…見たくなかったんだ。この前韓国行った時二人共よく手繋いだりしてただろ?だからもうお前に触れられたくなかった、触れさせたくなかったんだ。」
「…………」
「だから俺が風邪って事にしたら緑川もお日様園に残ってくれるかなって。触れさせないですむって思ったんだ。」
「…ヒロト、」

そんな事知らなかった。
ヒロトは独占欲や嫉妬があまりない方だとばかり思ってたけど、実際は俺が他の誰かと仲良くしてるともやもやしたりしてたのかな。
そうとも知らずに俺は…

「ヒロト、こっちこそごめん。」
「…なんで緑川が謝るの?」
「だって、俺ヒロトの気持ち分かってなかった。俺、これから他の人とはあんまり仲良くしないようにするよ。」

俺の発言に、ヒロトは目を少し大きく開き軽く驚いた様子だった。
けどすぐにいつもどうり優しく笑ってありがとう、だなんて言ってくれると思っていたら。
ニタァ。
そんな感じにヒロトは笑った。
一瞬ゾッとした、だってそんな笑み見た事無かったから。
いつもみたいな優しい笑みじゃない、歪んだ気味悪い笑み。
そして何時もより幾分か低い声で

「もう誰にも触れさせないよ。」

だなんて言うもんだから背中を寒気が走った。
けどヒロトはすぐにいつもどうりの表情に戻った。
あれ、さっきのは気のせい?
あ、そうか気のせいか、まぼろしか。
そう言い聞かせるようにしてヒロトに微笑みかけた。
するとヒロトがキスをしてきた。
いつもキスされるとドキドキするのに何故か今回はドキドキしなかった。
あの歪んだ気味悪い笑みが頭から離れない。
だって、それほどまでに衝撃を受けたんだ、さっきのヒロトには。

ヒロトに対して恐怖の様なよく分からない感情が芽生えた。






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