ぴょーん。 …いや。 びよーん、か? …うぅん。 「おほっ、おまえ髪の毛びゃーんってなってんぞ!」 「びゃーんってなんだよ!」 ……‥捕らわれ忍者 両親が旅行中、妹が友人と外泊、誰も居ないから、ウチに泊まりにこないか、と昨晩の安形。その言葉に、なぜか易々と彼の家に泊まり込んでしまった俺。夜遅くまで安っぽいホラー映画を見て、適当に飯を食って、実に適当である夜中の2時過ぎにそれぞれ布団に入ったところ、ベッドに招かれ、なんだか精神状態がどうかしていたとしか思えない俺は彼のベッドにあがり。 …なんだか久々に恋人らしい行為に流されてしまい、そのまま爆睡、起きて、今に至る。 「…これはひどいな」 「…時間ねぇのに…」 いつもはどうもなってない俺の髪が、今日はあり得ないぐらい寝癖でうねっている。理由はわかっている。乾かさないまま寝て、しかもなんか、そうゆう事になっちまったから、いつも以上に乱れちまったんだろう。とゆうことは。 「…惣司郎のせいだ」 「なんで!?」 「あんな激しくするなんて聞いてなかった」 「希里があんなに激しく乱れるのは俺の中で計算外…っいてぇ!髪ひっぱんな!抜ける!」 「全部抜けろ」 俺は安形の髪を離すと、鏡とのにらめっこを再開した。どうして、この後ろの髪の毛が、みょんと跳ねて居るのが気にくわねぇ。今日に限ってワックスを忘れたし、さすがにこれは外出できねぇ跳ね方だ。よりによって今日は学校…こんな髪で、生徒会に出向けるのか?俺。 「希里」 「なんだ」 「ちょっと貸してみ」 「は?」 よくわからなかったが、彼のジェスチャーからして、どうやら自分に髪をいじらせろと言っているようだったので。俺は彼に背中を向けた。安形は俺の髪をわしゃわしゃといじりだす。「あちゃあ、こりゃどうしようもねーな」と聞こえて来て、殴ってやろうかと一瞬本気で考えた。 「あっ」 「今度はなんだ」 「俺のワックスかしてやるよ」 「…は?」 驚いて安形を振り返ると、既に彼の手には、水色の四角いケースのそれが握られていて、蓋が開くと、ふわ、と甘い匂いがした。受け取ろうと思い手を伸ばそうとすると、どうゆうことか、彼は自分の指でそれを掬い取り、手のひらで擦り合わせる。…いやな予感がした。 「…アンタがセットすんのか」 「ん?もちろん」 「できんの?」 「できるって、いつも自分のやってんだから」 「…同じ感じになったらブッ潰す」 「かっかっか、しねーって」 くすくすと笑いながら、ふわふわと髪の毛を持ちあげられる。甘い匂いがする。なんだか落ち着く匂いで、俺は目を細めた。 「なぁ希里」 「は?」 「あのさ…、おまえその「は?」ってのやめろよ」 「じゃあどうすればいいんだよ」 「…「なーに?惣ちゃん」とか」 「それ本気で言ってんなら、二度と口聞かねえぞ」 「かっかっか、冗談だって、冗ー談」 「…」 「おまえ髪、やらけーなぁ」 「変態か」 「いやだって、いつも思うんだよなぁ」 「…いつも?」 「おう、ヤってるときとかに」 「どうやら早死にが御希望みてぇだな、どうする、明日とかが無難か?」 「おほっ、どうした今日、毒舌が絶好調じゃねえか、デージーでも乗り移ったか」 「…惣司郎は」 「ん?」 「……そうゆうとき、頭なですぎなんだよ」 「…だっておまえ苦しそうな顔すんじゃねーか」 「…」 「痛みも、ちょっとは和らぐだろ?」 「…ばかだろ、アンタ」 鏡越しにうつる相手の表情が得意気なのと、自分の顔が真っ赤になるのがわかったから、俺は黙って目の前にあった鏡を机に伏せた。安形は笑ってるし、図星を突かれてどうしようもないのだ。感情がぐちゃぐちゃになって、整理がつかない。 「おほっ、これ良い感じじゃねーか?鏡見てみろよ」 「…」 言われたままに鏡を手にして、髪の毛を確認する。それは驚くほどいつものスタイルで、寝癖が直ったことに対する喜びのすぐ後に、安形がどれだけ自分の事を把握しているのかと想像してうまれたなんとも言えない感情に、無償に照れくさくなった。 鞄を抱え玄関まで来て、靴を履く。一応お世話になった訳だから、「おじゃましました」とつぶやく俺に、安形はネクタイを差し出してきた。 「…なんだよ」 「ネクタイ」 「いや、わかってるけど」 「締めてくれよ」 「…わかった、首を締めればいいんだな?」 「えっ、ちょ、おいおいおいおい、ネクタイを締めるんだぞ?わかる?希里くん?」 「わかんねぇな、ほら貸せ、締めてやる、よく締めてやる」 「なんで自宅の玄関先で恋人に絞殺されなきゃいけねんだよ!」 「…わかったから、ほら早く貸せよ、時間ねんだよ」 あまりにしつこい安形に、右手を差し出すと、そこに乗せられたのは見なれた赤いネクタイ。さすが3年間してきただけあって、かなり年季の入っている、くたびれたネクタイだ。彼の首にかけて、前で結っていると、上からこらえた笑いが降って来て、俺は睨むように見上げた。 「…んだよ」 「いやぁ…、新婚みてぇ、と思って」 「…」 「あっ、ちょっと待てよ、マジで引いてるだろその目」 「…引いてねえよ」 「そっか?」 「ただ、」 「?」 「…新婚なら、ここで旦那から何か返ってくんじゃねえの?って考えてただけだ」 俺の言葉に、安形は目を丸くする。言ってから恥ずかしくなった俺は、ネクタイを結び終えると、どん、と強めにその結び目を叩き、「行くぞ」と扉へ向かった。すると、後ろに無理矢理引き寄せられ、安形の体に背中を預けるようにもたれかかってしまった。思わず振り返ると、いつの間にか回されていた安形の右手に顎をつかまれ、そのまま深く口付けられる。背中に感じる体温が昨日の夜のままで、俺はなんだか逃げ出したいぐらい恥ずかしくなった。 「…これだろ、旦那が返すもんっつったら」 全てを悟ったような目を、俺は緩く睨みつけると、「わかってんじゃねえか」とつぶやいてから、今度は自らその唇に噛みついてやった。 : 「あれ?加藤くん、今日なんだかいつもと違う…?」 これが朝一、教室に入った時、瀬川が俺に言った一言だ。俺は自分の体を見渡して、別にいつもと違うところなんてない、と言ってのけると、「ううん、違うの」と彼女は首を横に振る。 「こんなこと言うとなんか変な子みたいだし、気分悪くしちゃったらごめんね?…香水とか変えた?」 「香水?」 「うん、いつもと違う匂いがする」 「…あー」 香水…はつけてない。というと、残るは。 「…ワックス、か…?」 「あ!ワックスね、変えたんだ、すごくいいよ」 「…あのさ、」 「ん?」 「…褒められても、今日だけだぞ、これ」 「え?そうなの?…あ、誰かのを借りたんだ」 「…まぁ、そんなとこだな」 「でもいいよ、似合ってる、…あ、匂いなのに、似合ってるって言うのは変か」 くすくすと笑う彼女を残し、俺はダッシュで屋上へ向かった。チャイムが聞こえる。きっと、一限開始の合図だ。でも俺はひとり、屋上の扉の前に腰を下ろした。顔に、熱が集中するのがわかる。風のきつい屋上へ来たのは、ちょっと間違いだったかもしれないけれど。 「…授業なんてできっかよ……」 風に煽られ、ふわふわと髪から香る匂いが、昨日の夜や今日の朝を思い出させる。もう一晩、彼の家族が帰ってこないと言うのなら、今日も転がり込んでやろうかと考える俺は、相当馬鹿なのかもしれない。 そんなことを考えた、冬のある日のこと。 ……‥ にと里様7777hitsキリ番リクです! ワックスネタ!斬新で感激しました/// 私にはない発想が新鮮でたのしかったです^^ 希里がナチュラルに下の名前で呼んでる件^^ 完全に私の趣味ですおそれいりますすみません^^ ありがとうございました! *** 大好きなあぐ様のサイトを元気にSTKしていたら、 なんと7777番踏みまして(爆発) やっべーパチンコせっかく止められたのにまた行きたくなっちゃったあてへっ☆ なぁんてうんこな気持ちで報告したらリクエストどうぞと。 ええええやったあああああああ!と興奮のままにリクエストしました。 安形にキリたんの髪の毛セットさせてくれと。ときめかせてくれと。 ……え?社交辞令?遠慮? 何それおいしいの?(・∀・) またしても萌えるお話に仕上げていただきました。 たぎる。たぎります。名前呼びとか発狂ものですhshs。やはりあぐ様は田名部君です。 あぐ様、素敵なお話をありがとうございました! |