※小田倉君独白。 ※スイッチオンを読んでからでないと意味分からないです。 ※オンですよ。オフじゃないです。 ※読んでも分かんねーよっていう突っ込みはナシの方向で。 *** 誰とでも分け隔てなく触れ合える彼が僕にとっては妬ましくもあり、それ以上に輝かしくもあった。 妬ましいというのは少し歪んだ表現で、語弊を生むかもしれない。ただ純粋な羨望が根底にあるのだから。 僕には無い見目麗しい容姿を持ちながら、彼はそれをいやらしく誇示する事は決してなかった。 彼はいつだって有りのままで、自然体で人と接する事の出来る人間だった。 大概見た目から趣味から敬遠される事の多かった僕にさえも、彼はそのままで相対してくれたのだから。 彼をそうさせたのは彼の中にある純粋な好奇心だったのだろう。 そしてその対象が僕に、僕が持つ知識、僕の中身、僕を形成しているごく一部に対して向けられて、彼は僕に話しかけたのだ。 その一部を知るがために彼は僕に。きっと。 僕を覆う、僕が纏っている、僕という奇異な体裁などは気にも留めずに通り越して、彼は。 稀有な存在だと率直に感じた。大抵の人なら歩み寄ってすらこない僕のテリトリー。でも彼は何の躊躇もなく境界線を越えた。 僕が僕である事なんて関係ないみたいに、僕の中に在る大切なドアをノックして、ゆっくりと入り込んで、引き出しを覗き込んで、帰っていった。 その感覚に対する嫌悪などは全く無かった。だってそれはまるで流星の様だったから。 たった一瞬で夜空を彩って、そして何もなかったみたいに、ただ去っていく。 刹那に輝き夜空を照らす、キラキラ綺麗な流れ星。彼はそんな、光の様な存在だった。 果てのない空の中で彼は輝き、そして時折、僕の元へふらりと流れた。プラネタリウム。僕が唯一、輝けた場所。 例えどんなに醜くくたって、作り物の夜空の中でなら、同じく僕も星になる事が出来たから。 作り物の空の中で、同じく作り物の輝きを放って、彼はホンモノの空を知りながら、偽りの空にも惹かれていた。 彼はそれでも有りのままで、光り、流れて、繰り返して。彼は何度もふたつの空を、キラキラと眩しく照らしていた。 けれど、落ちた。 深い、深い、暗闇に。星は光を失った。 彼は居場所を変えてしまった。千里の空からプラネタリウムへ。 どんな時でも星が流れる、作り物の夜空の中へ。 彼は彼自身を覆い隠した。心を閉ざして、偽りを纏って、レプリカの星となったのだ。 ニセモノ達が彩る夜空。彼はそこに紛れながら、僕に気づくと流れて消えた。それはまるで流星の様に。 僕の光は届かなかった。 しかし、追いかける事は出来なかった。 光が落ちていった先、流れた星の行方。その理由と居場所を知りながら、知っていたからこそ、僕は。 分からなかった。 流星の輝きと同じだけ、それ以上の暗闇の中で光を失くした彼に、僕は何をしたら良いのか分からなかった。 何をしても彼の深い暗闇に飲み込まれてしまいそうで、だって僕には彼のような眩しさなど、ひとひらも存在しなかったから。 それでも僕は流星を求めた。ホンモノの空の中で流れる星を。 たった一瞬で夜空を彩った、あのホンモノの輝きを。 鮮烈な眩しさだけが、僕の中に焼き付いていたから。 僕は幾千のレプリカに混ざり、再度彼の元へ流れていった。 僕を封じ込めて彼のドアをノックすると、彼は気さくにドアを開けた。 そして輝いた。キラキラと。ニセモノの光を纏いながら。 ホンモノの空なんて知らないかの様に。何もなかったみたいに。 そう、まるで、何もなかったみたいに。 悲しかった。 彼は僕の境界線を越えてきてくれたのに。僕が僕である事なんて関係ないみたいに流れてきて、光を照らしてくれたのに。 ニセモノの中に紛れる彼は、僕が僕であるがために、僕を拒絶したのだから。 ホンモノの空と、ホンモノの光を閉ざした彼。 そんな彼に、僕が出来る事なんて何ひとつも有りはしなかった。僕の纏う光は所詮レプリカなのだから。 果てのない夜空への道筋なんて、彼に伝えられるはずもなかった。 星がどのように輝くのかなんて、彼に伝えられるはずもなかった。 僕はホンモノの空の中では、彼の様な綺麗な星にはなれやしない。 キラキラと輝いて、たった一瞬で夜空を彩るなんて、そんな事など出来やしない。 僕のニセモノの輝きなんかじゃ、彼の暗闇に一筋の光を差し込む事さえ、叶わなかったんだ。 落ちた星の存在を傍観者達が忘れた頃。それは空気が澄んで、夜空が凛と広がる季節。 あのふたりは現れた。 かつての彼の様に、有りのまま、自然体で、流星の様に流れてきた。 かつての僕の様に、流星を求めて。 あのふたりは、彼の輝きを知らなくて。 あのふたりは、彼の暗闇を知らなくて。 けれど、あのふたりは、ホンモノの空を知っていた。ホンモノの空だけを知っていた。 果てしない夜空の中で鮮やかに流れる流星の存在を、確かにあのふたりは知っていた。 僕はプラネタリウムの存在を、そこで輝くレプリカの彼の存在を、あのふたりに告げた。 ホンモノの空しか知らないあのふたりなら、ホンモノしか知らないあのふたりなら、彼に伝えられるんじゃないかと、そう思ったんだ。ホンモノの空への道筋を、彼に。 あのふたりは彼とは違った光を持っていて、彼と同じく流星の様に現れて、ホンモノの空の中で堂々と、眩しいくらいに輝いていたから。 きっとふたりはニセモノの僕の光なんて忘れてしまうのだろうけど、それでも僕は願った。 流れ星が僕の元に流れる事を。僕の元から去り行かぬ事を。 彼がまた、ふたつの空で輝ける事を。 もう一度、あの綺麗な流れ星が見たかった。 そして、星が流れた。 あのふたりは、彼をホンモノの空へと導いてくれたんだ。 彼はニセモノのままだったけれど。ホンモノの空の中、レプリカの星のまま。 作り物のまま流れてきた彼は、酷くいびつで、酷く奇怪だった。 たった一瞬で夜空を照らした彼の光が、そこには皆目見当たらなかった。 傍観者達が空を仰げば、残されたままの彼の暗闇が次々と辺りを飲み込んで、暗く、深く、支配して。 彼のテリトリーには誰ひとりも、近づくことなど出来なかった。 だけど。 だけど僕は、踏み出そうと、そう決めた。 彼のテリトリーの境界線を越えようと、そう思ったのだ。 だって、鮮烈な眩しさだけが僕の中に焼き付いていたんだ。たった一瞬で夜空を彩った、眩しい流星。 今の彼がニセモノのままであろうとも、彼は間違いなくホンモノの空を知っていて、輝き方だって分かっているはずなんだ。 輝く事を始めれば、またかつての様にキラキラと綺麗な流星になれるはずなんだ。 例え今はまだ、作り物の光のままだとしても。 それでも彼は確かに、ふたつの空を照らしていたのだから。 僕は願ったんだ。 もう一度彼がふたつの空で輝ける事を。 あまりにも綺麗だった流れ星を、もう一度見たいと願ったんだ。 だから、今度は僕が越えるんだ。 彼を覆う、彼が纏っている、彼という深い暗闇などは気にも留めずに通り越して、僕は。 かつて彼がそうしてくれた様に、今度は僕が。 ドアの向こう側が真っ暗で、引き出しを覗き込むことが出来なくても。 彼の大切なドアを開く事さえ出来なくても。 僕のニセモノの輝きなんかじゃ、彼の暗闇に一筋の光を差し込む事さえ出来ないと分かっていても。 僕の境界線を越えたのは流星の様な、紛れもない彼の光だったのだから。 ―――――流星―― 「いやあ〜笛吹氏、久しぶりだねェ」 fin 小田倉君はスイッチに話しかけてもらえた事が嬉しかったんだろうなと。スイッチが好きだったんだなと。ホモとか関係なくね。 スイッチオンのキーマンは間違いなく小田倉君だし。感動した。だから小田倉君の株を上げたくて書いた。 もし小田倉君があんなキッツイ容姿でなければ間違いなくにと里はオタスイにもスイオタにもハマっていただろう。 (爆発) いやだって仕方ねーじゃんw 流石に小田倉君で甘い淡い妄想は出来ねーよw |