※未成年の喫煙の描写がありますが、お話の演出上のものです。
※未成年の喫煙を助長する目的は一切ありません。
※未成年の喫煙は法律で固く禁じられています。
※そこんとこよろしくね!


桃色シガレット


部屋の片隅に無造作に転がっていたのは、14ミリのかけらだった。
今は全く吸わなくなったそれ。7つの星は少し歪んで、薄く埃がかぶっていた。

手に取って埃をはらう。
そして中に入っていたライターを視界に捉えると、無意識にアタイの足はベランダへ向かっていた。
部屋の中に匂いがつかないよう、窓をしっかりしめて、寄り掛かるようにしてしゃがみ込んだ。

冷たいそよ風を頬に感じて、それから一度、夜空を仰いだ。
幾千の星がキラキラと輝いていて、凄く綺麗で。
しばらく眺めたところで視線を手元に戻した。
ライターを取り出して、左手首のスナップを利用して、フィルター部分を1本、露にする。
唇にくわえて左手を下げれば、後は火をつけるだけ。
箱を足元に放って、くわえた煙草の先端をそよ風から守るように左手を添えた。
ライターに火をつける。カチッと小気味よい音。
朱を灯すために息を吸い、先端が熱に滲んだのを確認してから、ライターを箱に重ねて、唇に委ねていた煙草を右手の人差し指と中指で挟んだ。

息を吸う。一口目は肺まで入れず、直ぐに吐き出した。
濃い灰色。それが夜空に混ざって、消えた。ゆらゆらと。
そしてもう一度、同じ所作を繰り返した。
今度は肺まで吸い込んで、しばらくしてから吐き出した。
薄い灰色。それは体が煙草の成分を吸収した証だ。
吸っては吐き出して、吸っては吐き出して。
無意識に見上げていた冬の澄んだ夜空には、まばらな灰色が溶けて、星の輝きを遮っていた。

久しぶりのそれは少し苦い。
次第に口の中がヤニ臭さに染まり、不快感から唾を吐いた。
何てヤンキーみたいな行動なんだろうと思って、そういえばアタイはヤンキーだったなと、今は見る影もない過去を思い出したら、少し笑えた。
公言しているとはいえ、今のアタイはとてもふわふわした、桃色が良く似合うアイドルだ。
そんな今のアタイに、煙草なんて似合わない。こんな姿、ファンが見たらきっと泣くだろうな。
そう思ったらやっぱり笑えた。
そして虚しくなった。
この夜空にも、アタイを形成した灰色は似合わない。

煙を吸って、吐き出して、体がこれに順応したのはいつからだっただろうかと考えて、あの人を思い出した。
煙の先に影を見て、ずっとずっと追いかけていた、強くて、絶対的な存在の、あの人を。


(……姉さん……)


友達の作り方なんて知らなかったアタイが、あの人に、語り継がれていた伝説に焦がれて、この身を真っ黒な影に染めたのは、丁度去年の今頃のことだった。
何をしたらいいのか全然分からなくて。アタイに残されていたのは模倣することだけだった。
髪を金色に染めて、肺を灰色に染めて、バットを握りしめた手の平を赤色に染めて。
いつしかアタイの唇は、汚い煙と汚い言葉を吐き出すようになって、アタイの両手は沢山の人を傷付けるようになっていた。

だけどそれがすべてだと思っていた。あの人があの人である証だと。
あの人に近づくための、あの人と同じ気持ちを共有するための、たったひとつの方法だと、そう思っていた。
金色の髪が揺れる度、灰色の煙が肺を侵す度、両手に赤色が飛び散る度、心にあの人の影が浮かんで、すき間だらけのそれが満たされていくような気がした。

そうしている内に、アタイには初めて仲間が出来た。アタイを慕ってくれる大切な存在がアタイにも出来た。
嬉しかった。そしてアタイは間違っていなかったんだって、あの人の模倣犯になることで、アタイは大切なものを手に入れられるんだって、すき間を埋めていけるんだって、
あの人はアタイに色々なものを与えてくれるんだって、そう思えた。

間違っていなかった。
アタイの大切な存在は、アタイにあの人を引き合わせてくれたから。
ずっとずっと焦がれていたあの人を、アタイの目の前に連れてきてくれたから。

だけど間違っていた。
伝説は伝説でしかなかった。
唯一共有していたのは光のような髪の色だけで、アタイが順応した灰色に、飛び散らせた赤色に、あの人は染まってなんかいなかった。
あの人の唇は汚い言葉も汚い煙も、吐き出してなんかいなかった。
あの人の手の平は誰ひとりも、傷付けてなんかいなかった。

あの人の唇が吐き出していたのは泣きたくなるくらいの優しさだけで、あの人の手の平は誰かを守るためだけに存在していた。

そしてアタイは泣いたんだ。
あの人は沢山の人を傷付け続けたアタイも救ってくれて。
あの人はアタイの心に光を射してくれて。
あの人の優しい光に包まれて、アタイは声をあげて、あの人の優しさに涙を流した。
アタイの唇が初めて、綺麗なものを吐き出せた気がした。
アタイの手の平が初めて、大切なものを掴めた気がした。

綺麗なものを吐き出すことが出来て、アタイは変わった。
誰かを傷付けるしか出来なかったアタイの唇が、アタイの手の平が、誰かを笑顔にすることが出来て、守ることが出来るようになった。
あの人はすき間だらけだったアタイの心に眩しいくらいの光を射して、大切なものを与えてくれた。
アタイが守るべき、アタイを慕ってくれる仲間も、アタイが今誰かを笑顔にするために、存在出来る理由も。
全部、あの人が与えてくれた。

あの人の光は、この幾千の星達の輝きに良く似ている。
キラキラと輝いて、眩しくて、ただひたすらに綺麗で。
今はこの輝きを灰色が遮っているけれど。ゆらゆらなびく灰色が。
薄い灰色。どんなに薄かろうと、灰色は灰色で、邪魔でしかなくて、嫌気がさした。
さっき吐き出した唾で煙草を消した。すると今度はその残骸が吐き気がするほどに汚くて。
汚くて、汚くて、汚過ぎて。

こんなの、あの人じゃない。
こんなの、アタイじゃない。

嫌悪感が渦巻いて、小さく息を吐いた。
白。冬の寒気に染まった、白色。
白い吐息は綺麗だった。
夜空に溶けた白色は、星の輝きをより一層際立たせたように思えて。
夜空に浮かぶ幾千の星が、本当に綺麗だった。

要らない。そう思った。
手の平に収まる7つの星は、アタイにはもう必要ない。

アタイの唇は煙を吐き出すためにあるんじゃない。
アタイの手の平は煙草を持つためにあるんじゃない。
誰かを傷付けるためじゃない。
誰かを泣かせるためじゃない。

アタイの唇は、誰かを笑顔にするために今は存在していて。
アタイの手の平は、大切なものを守るために今は存在していて。
それが、今のアタイのすべて。

煙の先に影を見ていた。
髪を金色に染めて、肺を灰色に染めて、手の平を赤色に染めて、模倣犯になった。
大切なものを手に入れられた。
すき間を埋めてくれた。
あの人はアタイに色々なものを与えてくれた。

それは間違っていない。だけど間違っている。

影は光だった。
そして今もその光は、アタイを優しく包んでくれていて、心を照らしてくれていて。

煙の先に、追いかける影なんてもう存在していない。
模倣犯でいるのは、もうおしまい。
アタイがアタイでいられるすべてを、あの人は与えてくれたのだから。

そよ風に香りを流して、部屋に戻った。
吸い殻と煙草をごみ箱に放り込むと、
アタイはまたひとつ、大切なものを手に入れられたような気がした。





fin





モモタン過去捏造/(^O^)\
噂広めるのに時間かかったってことでここはひとつ。
7つの星はセブンスターね。煙草の銘柄です。

つーかスケダンで1番ヤンキーらしいのってモモカだと思う。
だってバットよ?人死ぬよ?それを振り回すとか本気こえーよw

そんで高校生って何でかやたらセッター吸いたがるよねって思ってね!

え?にと里?
ち、違う!にと里じゃない……!

にと里はマル金吸っ(ry


(爆発)





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