ギャーギャー喚く城ヶ崎を連れてスケット団は廊下を歩いていた。
その表情はあまり明るいものとは言えない。
だが三人の気持ちなど露知らず、城ヶ崎は興奮に頬を染めていた。


「なあ誰なんだよ?俺楽しみ過ぎてやべーよ……」
「良かったな……」


子供のように瞳を輝かせる彼にボッスンはもう何も言えなかった。
そして目的地へとたどり着く。
生き生きとしていた城ヶ崎も到着した途端、訝しげに顔を歪めた。


「は!?なんで生徒会室なんだよ!……まさかお前ら俺のことハメた!?」
「だあーうっせぇな違ぇよ!とりあえずテメーはここで待ってろ!」


突っ掛かる城ヶ崎を適当にあしらい、ボッスンは生徒会室の扉を開いた。


「邪魔するぜー」
「むっ?騒がしいと思ったら君達か。相変わらず暇そうだなスケット団」
「何でお前はいちいち悪態つくの!?ヘコむよ?いい加減ヘコむよ俺?」


突然の来客に椿は驚きつつも、棘のある言葉で迎え入れる。
ボッスンは涙目になりながらその棘を抜きとり、単刀直入に椿へ問い掛けた。


「なあ、お前さ、おとといどこ行ってた?」


その言葉に椿は分かりやすいほどにピシリと固まり、ボッスンを一瞥して気まずそうに瞳を逸らした。
その反応に、ボッスンは半ば確信したように息をひとつ吐く。


「どこも何も……学校に決まっているだろう。僕は皆勤賞が欲しいからな」
「んなこた分かってんよ!放課後に決まってんだろーが!放課後!」
「……君には関係ない」
「え?何?言えないの?もしかして言えないトコ行ってたの?天下の生徒会長様が?」
「……テメー、これ以上会長に無礼な態度をとんなら吊すぞ」
「何でコイツはこんなに怖いの!?」


明らかに狼狽する椿。
その後ろにいたキリに激しく威嚇され、ボッスンは軽く涙目になった。

そんなやり取りを何事もないかのように見つめていた生徒会の女子三人だったが、丹生は不思議そうに口を開き、鈴を転がしたような声を響かせた。


「あら、椿君。キリ君と不良を退治しに路地裏へ向かったと、正直にお話してはいかがですか?」
「丹生!君全部言っちゃってる!」
「女子を囮にはしないと、自らセーラー服を着た椿君はとても可愛いらしかったですよ」
「あああああー!頼むからもう何も言わないでくれぇ!」
「……やっぱりな」


羞恥に耳まで真っ赤に染めた椿を見て、ボッスンは自分の仮説が正しかった事を知るが、とても複雑な気持ちになった。

ぶつかった女生徒の目線の位置が城ヶ崎とあまり差がないことから、ボッスンは女生徒の身長が170cmくらいであると推測した。
口を開かないのは理由があるから。それに路地裏は不良のたまり場で、最近不良が悪さをしているのは有名なため、女子がひとりでうろつくなど考えられない。日が暮れているなら尚更。
そしてその不良に開盟学園の生徒も被害に遭っているとなると、椿が黙っているはずがないし、何らかの形で動いているはずだと思考が巡った。
口を開かない170cmの美人と正義感の強い椿。
城ヶ崎の語る容姿と過去の記憶から、ふたりがイコールで結ばれるのにさほど時間はかからず、情報を整理するどころか、まさか答えが出るとは思ってもいなかったため、正直動揺した。

カチューシャと勘違いしたものは三編みされた前髪。
話さないのは声でばれるから。
目撃したのはおととい。
不良は昨日には退散しており、椿が女装をして不良を退治しに行ったと考えればしっくりくる。
すぐに消えるというのも大方、椿にゾッコンのキリが度々連れ去っていたのだろう。

そして似顔絵を城ヶ崎に見せると案の定だったのだ。


「……ってゆーか何でオメーはセーラー服なんか着てヒュンヒュン消えてんだよ!紛らわしいだろーが!」
「素性を隠すために決まっているだろう!顔を晒しているんだぞ!開盟学園の制服を着ていたら僕の身許が確実にバレてしまうではないか!開盟学園の生徒会長は女装趣味などそんな噂を流されるのは御免だからな!」
「いやバレねーよ!?お前女装したら別人だよ!?ただの妖精さんだよ!?知らないの!?」
「ヨウセイサン……?」
「お前らのおかげで妖精さんがでたーって学校は大盛り上がりなんだからね?そこんとこちゃんと分かってる?」
「なっ、何なんだヨウセイサンとは!意味の分からない事を言うな!」
「あーもうコイツマジめんどくせぇ!オメーのこと言ってんだよこの妖精まつげ!」
「意味の分からん事を次々と貴様ァ……!」
「テメー……吊す!」
「吊すな!」
「コイツマジ怖ぇ!」


本題から大分逸れた位置できゃんきゃんと吠えつづける三人。
それをヒメコやスイッチもじっと傍観していたが、中々本題に切り出さないボッスンにヒメコはさすがに痺れを切らした。


「兄弟喧嘩はいい加減にせんかいじゃかぁしいわぁ!セーラー服とか妖精さんとかそんなんどうだってええやろがいハゲボケコラァ!」
「ヒィッ……!」
『我々の来訪の目的はただひとつだ』
「む?では何なんだ一体?」
「あー……」


言葉を濁すボッスンに椿は訝しげな眼差しをむける。
ボッスンはガシガシと頭をかき、半ばヤケクソのように目的を告げた。


「椿、お前もっかい女装しろ」


沈黙が流れた。
驚きに瞳を丸めた椿だったが、徐々にそこに怒りの色が映り始める。


「急に来て何なんだ君は!そんなの嫌に決まってるだろう!」
「嫌とかじゃなくてしろっつってんの!」
「断る!断固拒否だ!」


椿からすれば当然だろう。
どうしてまた意味もなく女装をしなければならないのか。しかも命令系だ。
ただ、予想通りの答えに引き下がるスケット団ではない。


「一回でいいんだよ!頼む!この通り!」
「嫌だ!」
「でもな、アンタに会いたがってる奴がおんねん。一回でええから会ったってくれへん?」
「そんなの僕には関係ないだろう!」
『それが開盟学園の生徒であってもか?』
「何っ……!?」


開盟学園の生徒であると告げた途端に椿は迷いの色を見せた。
何だかんだ言って生徒の事は大切に思っているからだ。
その些細な色の変化を見逃さず、スケット団は更に言葉を重ねた。


「あっ……会いたくて会いたくて授業も身に入らないんだとよ!」
「め、飯も食えへんて!」
『右手も洗えないそうだ』
「右手?」
「スイッチてめぇ余計なこと言うな!とっ、とにかく、会ってやってくれよ!頼む、この通りだ!」


ボッスンは両手を合わせて椿に懇願する。
真摯な声を無下にする事もできず、椿はうっとたじろいだ。

再度沈黙が流れる。
するとスケット団の後方からパタンと携帯電話の閉じる音が聞こえた。


「……え?」


続いて外には轟音が響き渡る。

丹生グループだ。


「やったあああ!」
「おーきに!」
『ナイスプレー!』
「丹生!何故っ!」
「あら、良いじゃありませんか。それにどうせなら私もまたサス子ちゃんにお会いしたいですし」
「DOS(どうせならお会いしたい)」
「私もお会いしたいですとお伝えください」
「きっ……君達は!って何だ貴様ら!ちょ、離せ!キリっ助けっ!……っうわあああ!」
「会長ォ!(すみませんでも俺も会いたいです!)」


内部抗争勃発。
七対一による民主主義の犠牲となった椿は、到着した丹生グループによって連れ去られてしまった。












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