ひとまず完成した似顔絵を四人で覗き込んだ。


「……ただの美人じゃねーか」
「なんかクエッチョンに似てへん?あの子べっぴんさんやろ」
「誰だそのクエッチョンって?」
『しかしクエッチョンがぶつかられて素直に手をとり、尚且つ城ヶ崎に微笑みかけるとは到底思えない。むしろ激しく舌打ちのひとつでもしそうだ』
「てゆーかクエッチョンは頭緑色じゃねーか」
「せやったな……」
「だから誰なんだよそのクエッチョンって!」
『アーアーハイハイ』


なおもしつこく食い下がる城ヶ崎に、スイッチは同学年に美人で性格のキツい女生徒がいるのだと話をした。
しかし城ヶ崎はポカンと口を開き、ぶんぶんと首を横に振る。


「ちっちげぇよ!そもそもうちの生徒じゃねーし!」
「は?なんで断言できんだよ?」
「だってスタンダードなセーラー服着てたんだぜ!?」
『何故それを早く言わない!』
「ホンマ駄目やなアンタは!」


罵りつつも似顔絵にセーラー服を付け足し、三人は更に絵を凝視する。


「……」


「いや、他校生じゃ結局分かんねぇって」
「他に特徴ないんやろか?例えばアクセサリーとか、女の子やったらなんかしててもおかしくないやろ」
『とりあえず情報は多い方が良いな』
「なあ、何か他にねーのかよ?」
「他っつわれても……」


三人の急かすような眼差しに城ヶ崎はたじろぐ。
睨みつけるようなそれらにいたたまれなくなるも、視線を逸らしてただ必死に記憶を辿った。


「うーん、うーん……」
「早くしろよ」
「急かすんじゃねぇよ!今必死に……あ!」
「何だよ?」
「そういや頭に何かついてたような……」
「頭ァ?」
「この辺……何かこう、グルッと」


曖昧な輪郭を辿るように、城ヶ崎は指先で前髪の生え際辺りに半円を描いた。


「……日本語ちゃんと使ってくれる?何の事か全く分からないんだけど?」
「俺だってよく分かんねーんだよ!」
「カチューシャやないの?ほら、モモカがいつもつけとるやん」
『モモカ……?』
「誰だよそれ?」
『……モモカじゃないのか?』
「あ……」


ヒメコとスイッチの指摘を受け、ボッスンは似顔絵にカチューシャを付け足した。
更にいつもモモカがしているように、横わけにされた前髪も描き込んでみると、似顔絵のシルエットは三人にとってとても見慣れたものとなった。


「……モモカじゃね?」
「シャイやしな。せや!モモカやモモカ!」
「誰だよモモカって!」
『でもセーラー服なのは何故だ?』
「そこだよなぁ……」
「細かいこと言わんでええねん!モモカや!モモカで決まりや!今モモカに連絡とったるわ!」
「だから誰なんだモモカって!」
「やかましいわ!アタシ今からモモカに電話すんねんせやからアンタは黙っとけハゲボケコラァ!」
「ええぇ……!」


早く終わらせたいのだろう。
疑問符を浮かべる城ヶ崎に容赦のない罵声を浴びせたヒメコは携帯を取り出し、早急にモモカを呼び出した。


『姉さん?何だい急に?』
「あ、モモカ?アタシやけど。生きてる?あんな、聞きたいねんけど、モモカ最近こっち来たりしとる?」
『それが最近ドラマのクランクインしたばっかりで、全然休みがないんだ。そっち行くなら姉さんとスイッチに会いに行くに決まってるよ』
「あ……、ホンマに?何やキッショイ大男と道端でぶつかったりとかしてへん?」
『何だいそれは!?』
「ちゃうかー……。あ、スマンな急に」
『別に構わないけど……』
「落ち着いたら連絡頂戴な。たまには遊ぼ」
『うん!それじゃあまたね、姉さん!』
「またな」


ヒメコは電話を切り、それを握りしめたまましばらく無言で俯いた。
予想が外れたこと、そしてまた振り出しへと戻ってしまったこの現状に苛立っているのだ。


「……ヒ、ヒメコ?」
「っモモカちゃうなら誰やねんホンマ!」
「ヒィッ……!」


机を思い切り叩き、ヒメコは腹いせのように城ヶ崎を思い切り睨みつた。
そのあまりの鋭さに城ヶ崎はおろか、ボッスンとスイッチさえも、最早身をすくめるしか出来ない。


「うっ……で、でもっ、でもよっ……!だからオメーらに聞きに来たんじゃねーか!」
『大体妖精さんなんて非科学的なのだ。やはり最寄りの薬物病院でリハビリが必要なのではないか?なんなら今ここで予約してやっても良いがw』
「至って正常だ!それに俺だけじゃねぇっつったろ!もうこの噂かなり広まってるんだぜ?解明しなくていいのかよスケット団さんよ!」
「ちっ……うるせぇな」
「舌打ちすんな!」


しかしウェーブのかかった明るい髪色の、しかも端正な顔立ちの女生徒に見覚えなどない。
更に他校生となるとどこから切り崩せば良いのか見当もつかず、スケット団の3人は頭を抱えた。

そもそも妖精さんなんて大袈裟なのだ。
本当にそんなものが存在するなら逆に拝んでやりたいくらいだと、ボッスンは眉間にしわをよせた。


「でも目撃情報があんだよなー……」


ネックなのはそれだった。
城ヶ崎ひとりで騒いでいるだけだったら心置きなくスルー出来るのだが、事実、路地裏の辺りではおととい、端正な顔立ちの女生徒が何人かに目撃されているのだ。


「なあ、他のやつの目撃情報はどんななんだよ?」
『ほぼ似たようなものだ。近道しようと路地裏へ入った際にすれ違ったらしい。振り返ったらいつの間にか消えていたとのことだ』
「何でアンタはそんな詳しいねん!」


ボッスンは腕を組み、頭を捻る。そして額のゴーグルに手を添えた。


「一旦情報整理するしかねぇな」


そしてゴーグルを装着し、今までの会話のすべてを掘り起こして幾重にも反芻した。


(……開盟学園の生徒にも危害が、ねぇ。……んで、空はすっかり日が暮れて……近い位置にある目線にドキッと……声を奪われてしまったシャイな妖精さん……不良は昨日にはすべて退散していた……頭になんかついてた……いつの間にか消えて……)


(…………んっ………………?)

(………あれ?……ちょっ、………マジか……?)


部室にはボッスンから滲みだした緊張感が張り詰め、三人は息をのんでボッスンを見つめる。
しばらくしてボッスンはゴーグルを外し、苦しそうに顔を歪めた。


「ぶはぁっ……!げほげほぉっ!おふぅっ!」
「ボッスゥーン!」
『これは久々に酷い顔だな……w』
「なっなんか分かったかよ!?」


期待と不安に満ちた眼差しで城ヶ崎はボッスンを見つめる。
ヒメコとスイッチも気になっているようだ。

だが、三人の視線を受けているボッスンは言いづらそうに顔を歪めていた。
そしておもむろにペンを手に取り、新たに似顔絵を描き始める。
迷いなくペンを動かし、完成した似顔絵を城ヶ崎の目の前に突き出した。


「なあ、まさかとは思うけどよぉ……、お前が見た妖精さんって、…………こいつ?」


ヒメコとスイッチも横から似顔絵を覗き込む。
そしてそこに描かれた人物を見て固まった。


「え?これ……」
『なっ……何も言うな!』


あからさまに狼狽えている2人とは裏腹に、城ヶ崎だけは瞳を輝かせ、笑顔を覗かせた。


「そうだよ!まさしくこの子だ!何で分かったんだよ!?」


その言葉にますますボッスンのテンションは急降下し、眉間のしわが増える。
どうやら導き出した答えが正解であることに戸惑い、更には癇に障っているようだ。
どうすべきか悩んでいるスケット団はお構いなしに、城ヶ崎は興奮のままに言葉を続けた。


「なあ、誰なんだよ、何者なんだよこの子!頼むから会わせてくれよ!一度でいいんだ!」
「えぇー……」
「頼む!会いたいんだ!」


このままだと土下座して靴まで舐めてしまいそうな勢いで城ヶ崎は懇願する。
三人はうーんと渋りながらも、結局会わせることに決めた。


「……会わねぇ方がいいと思うぜ…………」


ホソッと零したボッスンの呟きは、残念ながら興奮した城ヶ崎の耳に届くことはなかった。












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