極彩


湿った風の流れた夜。
貴方と人工的な花を咲かせた。
人目につかない公園で、真夏の夜の小さな遊戯。
火花を散らして咲き誇る、淡くて儚い風物詩。


「キリ!綺麗だな!」
「そうですね」


カラン、コロンと音をたて、左手に花を咲かせる貴方はまるで、天真爛漫な幼子のよう。
琥珀が虹色に輝く様は、とても可憐で、鮮やかで。

募る想い。
言いかけて飲み込んだ言葉。


(貴方の方が綺麗です、なんて……)


陳腐にも程がある。
だけど、貴方を彩る言葉を他に見つけられなくて。

いつから焦がれていたのだろう。
いつから俺は貴方に恋し、心を揺らしていたのだろう。
貴方を見つめて生まれるのは、たったひとつの想いだけ。


(……好きです)


告げたらきっと楽になれる。
だけど告げられないのは、貴方の拒絶が怖いから。
俺の右手に咲く花のように、指先ひとつ触れられない。
触れたらきっと、火傷どころでは済まなくなってしまうのだろう。

さしずめ貴方は高嶺の花。
こんなにも近くに居るというのに、貴方はどこか遠くに居て。


(……さすけ、さん……)


俺はそっと、花びらで、貴方の名前を足元に刻んだ。
意味はない。けれど、大地に刻まれた傷跡は、何故かひどく感傷的に俺を焦がして。
口に出来ない言葉達が脳を巡って、泣きそうになった。


「……あ、もう終わりだな」
「そうですね……」


気付けば佳境は過ぎ去り、貴方は最後に小さな花を、大地に1番近い距離で咲かせた。
貴方の琥珀は深みを増して、花びらの行く末を物憂げに見つめていて。
募る想い。
触れられないもどかしさ。
ゆらゆら揺れる小さな琥珀。

傷付くことを恐れずに抱きしめたなら、俺の体には一体どんな傷跡が残るのだろう。


「……あ……」


貴方のか細い声と共に、花は散った。
それは貴方と同じ名前の花が、その命を終わらせる瞬間にとてもよく似ていて。

いずれは貴方の琥珀さえ、真っ赤な花のように散ってしまうのだろうか。


「片付けをして帰、ろ……っ……!」


俺は背を向けた貴方の胸に腕をかざした。
貴方の背中に心をあずけて、回した腕に力を込める。


「……キ、リ…………?」


花は泡沫。
目の前でそっと散るばかり。

でも、貴方は消えないで。


光を閉ざした花びらは、視界を灰色に揺らして、風に流れて消えていった。
残ったものは地面に書いた貴方の名前と、燃え尽きることなどなかった、俺の一途な想いだけ。
甲高い下駄の音色も聞こえない。
虹色の微笑みも見られない。
今はただ、触れる貴方の体温が、俺の体をじりじりと焼き尽くしていく。

怖くて、痛くて、愛しくて、あつい。

ただ、あつい。





fin





夏の終わりらしさを意識。
そろそろ秋がやってきマッスルね。





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テーマ「人外ファンタジー」
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