どこまでも澄み渡る大空が、あなたと重なったのです。
太陽も、月も、星も、雲も、何もかも、すべてを受け入れる空。
どこまでも澄み渡る青色は、常に前を向いて義を貫くあなたの強さのようで。
柔らかに差し込むオレンジ色は、あなたの琥珀色の瞳の優しい揺らぎに似ていて。


大空に名前を書く


いつの間にか傍に居るのが当たり前になっていて、お互いに干渉することが減っていった。
特に会長はその立場からも人柄からも、誰とでも平等に、分け隔てなく接するため、俺は会長の交友関係に干渉するたび、いわれのない虚しさを感じていた。


『会長?今、何してますか?』
『あぁ……すまない、書類が立て込んでいてな、明日提出なんだ』
『そうですか。それじゃ、また明日、お迎えにあがりますね。おやすみなさい』
『あぁおやすみ』


電話をしても話をするまでに至らない。
そんなすれ違いも、もう慣れてしまっていた。
会長はお忙しい方なのだ。
俺のくだらない話に付き合っている暇はない。
そうしていつからか、次第に連絡をすることが減っていき、気付けばわかりやすいほどに、2人の心の距離は遠く、離ればなれになっていた。


『キリ……』


別れよう、と告げたのは会長からだった。
生徒会の仕事も終わり、2人で戸締まりをすませた直後、真剣な顔つきで会長は俺を呼んだ。
真っすぐに俺を見つめる琥珀色の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいたように見えて。
それを隠すかの如く会長は下を向き、ゆっくりと、運命の言葉を紡いだ。


『……わかりました』


俺はどこかでその時がくるのを予感していたのかもしれない。
特に抵抗を示すでもなく、その言葉を受け入れた。

会長は俯いたまま、1度も俺の目を見ることはなかった。

ただ静かに、柔らかな夕日が、窓際に佇む会長の顔を、俯いたままのその表情を、長い睫毛さえも、オレンジ色に染め上げた。
オレンジ色に染められた会長はとても綺麗で、とても儚くて。
俺は会長に触れようと無意識に腕が伸びて、それを必死で制止した。
俺にはもう会長を抱きしめる権利などない。
自身を咎め、改めて会長の表情を窺ってみると、オレンジ色に染められた会長は絵画の様に美しいまま、そこに佇んでいただけだった。


それから1週間が経ち、会長と別れてから初めての金曜日を迎えた。
ここ1週間、相変わらず俺は会長の傍にいて、会長の身を案じている。
表面上は何ひとつ変わっていない。
変わったのは俺達の心の距離だけ。
ただそれだけ。

それだけのはずなのに、授業が全く身に入らない。
肩肘をついてどこか一点を見つめてしまい、その度に浮かぶのは会長の様々な表情ばかりだった。


「……はぁ」


ため息ばかりついて過ごした1週間。
流石に今日は6時間目の授業を受ける気になれず、そのまま屋上へ登り、寝転がって空を見上げた。

ゆらりゆらりと浮かぶ雲が青空を所々塞いでいる。
ゆっくりと流れる風に身をまかせ、時には青色を白く染め、時には青色に染められる。
果てのない空へ腕を伸ばしてみても、空を切るだけで、触れる事さえ叶わない。
縮まらない空との距離を思い知らされるようで、虚しくなった。


「眩しい……」


広げた指のすき間から、光が零れる。

会長みたいだと思った。
まるで、会長と俺みたいだと。

どこまでも澄んだ空が、会長の姿と重なる。
会長はいつだって真っすぐで、凛としていて。孤独の淵に居た俺を全身全霊で救ってくれた。
会長を空だと形容するなら、俺はその空を見上げて思いを馳せるだけのちっぽけな存在に過ぎないのかと、そんな思いがよぎった刹那、胸がきゅっと苦しくなって泣きそうになった。


「加藤やん」
「……っ!?」


突然降りかかった声に驚愕した。
上体を起こし、扉へ視線を向けると、眩しいほどの金髪が風になびいていた。

鬼姫だ。











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