はぁ、と、とても色気を含んだ息を吐き出して、キリは埋めていた顔をあげた。 小動物とはとても似つかない、情欲が露になった雄の顔。標的を前に舌なめずりをしている肉食獣だ。 「なっ、何なんだ!何故急にそんなっ……具合が悪いのではなかったのか!?」 「悪いです……。体おかしいです……。だから、癒して下さい……」 「はっ?」 「おれ、佐介さんに癒されたい……。佐介さんに愛されたい……。佐介さん……、お願い。おれを癒して……、おれを愛して……、おれをイかせて……」 「はあぁ!?」 うっとりとした妖艶な微笑みと、欲に染まった吐息を浮かべて、キリは低く艶めいた声でうわごとのように呟いた。 やばい。そう感じて直ぐ、背筋を何かがそっと伝った。 キリは本気だ。そして肉食獣が狙い定めた標的、それはまさかの僕。 「ま、全くもって意味が分からん!とりあえず退いてくれ!僕は今そんな気分では……」 「それなら、一緒にそんな気分になりましょ……?」 「へっ?……んぐ!」 しかし僕の僅かな抵抗はむなしく終わった。 キリは呟くや否や素早い動作で湯呑みに残っていた秘薬を口に含み、僕の半身を起こして口移しに秘薬を流し込んだ。 「んっ……!ふ、んぅっ!」 口内を縦横無尽に動き回るキリの舌。 そしてさらさらと秘薬が食道を流れる感覚が鮮明で、甘い香りが狭い口内に立ち込める。 いつの間にかキリの膝に乗せられ、後頭部をがっしりと固定されて唇を貪られていた。 「ん、ふっ、はっ……!」 「……んぅ、さすけさん……」 「キ、リ……!きさまっ…………はっ……!?」 唇を解放され、キリを睨みつけるも、それは直ぐに遮られてしまった。 体内をとてつもない熱が駆け巡ったのだ。 「……はっ、な、に?あ、あつい……!」 熱い。心臓が有り得ない早さで動き出して、体中が震え出した。 キリにしがみついて肩に顔を埋めるも、触れ合う箇所がどろどろにとろけてしまいそうな程に熱くて。 キリの温もりに、その先にある肌の感触と、深い部分で繋がるあの感覚が呼び起こされ、それが全身を包み始めた。 「いやっ……何でっ?あっ、だめ……」 「佐介さん、熱い……」 「やっ……!だ、めっ!触っ、ちゃ、だめだ……!」 キリの手が腰に回されて、パジャマの裾から入り込んできた瞬間、絶句した。 (……っあつい……!) 触れ合った部分から、燃え尽きてしまいそうな程の灼熱が生まれたのだ。 その熱は全身を巡って下腹部へ集まり、一瞬の解放を求めて体を疼かせて。 最早気が触れてしまいそうだった。そしてこの肌の感触に、先程キリが僕を退けようとした意図を漸く理解した。 理性が保てない。消えていく。熱に溶かされていく。 本能の毒牙が理性を次々と噛み千切っているのだ。 「んっ、ふ、……いや、だめ……あつい、……あついよぉ……!」 直接触れられたことによって、体が疼きだした。 むず痒くて、もどかしくて、そして、ただ熱くて。 熱の解放を求めるように、僕の左手は無意識に猛り始めたペニスに触れていた。 「んっ!ふっ……!あ、あ……!」 「佐介さん……?」 「ああ、あ、……あ、あ」 左手は止まることなく動き続ける。 ペニスの先からは白濁混じりの先走りが次々と溢れ出て、本能のままに動く左手をぐちゃぐちゃに汚した。 それでも止まらない。羞恥心もしがらみも何もなくて、求めるのはただひとつ、この先にある絶頂だけ。 「イきたいんですか……?」 「う、あ、はっ……、あっ!」 「……えっち」 「え……?」 耳元でキリの声が聞こえたかと思ったら、くるりと体の向きを変えられ、背中にキリの温もりを感じた。 キリに寄り掛かるような体制で、膝を大きく広げられる。 「や、……な、に……?」 「どうぞ続けてください」 「なっ……」 「佐介さんのオナニー、……すごく興奮します。もっと見たい……」 「いやあっ……!」 酷く変態めいたことを口走り、キリは僕の左手に自分のそれを重ねて、僕のペニスを扱き始めた。 「あっ!あっ!ふああ、ああ!」 「はぁ……かわいい……佐介さん、おっきくなってる……」 「やっ、やめっ……!はなしてぇ……!」 「や……、です」 ペニスに直接触れるのは自分のよく見慣れた、そしてよく使い慣れた左手なのに、その動きは自分のそれとは明らかに違っていて。 自慰行為なのに、自慰ではない。 キリに触れられているのに、キリではない。 曖昧な現状に生まれるのは興奮。そして導かれたのは絶頂だ。 あらゆるものの相乗効果に思考は置いてきぼり。熱を持った体だけがすべてを支配していた。 「お、お願っ……!離しっ……!も、イク、からぁ……!」 「だってさっき……、佐介さんも離してくれなかったじゃないですか。……お返しです」 「いやっ……何言って!も、あっ……!ダメ!イク!イクッ!」 「イッてください」 「いやっ……!キリのばかぁっ……!」 半ば強引に自身を扱かれ、呆気なく僕は達してしまった。 呼吸が乱れて、上手く肺に酸素が回らず、どこか虚ろになりながら深呼吸を繰り返す。 何と言う失態だろうと、今更になって羞恥心が目を覚ました。 他人の前で自慰行為をしてしまうなんて。しかも相手はキリだ。 しかし、それを恥じるのもつかの間。今度はキリに背を押され、僕は仰向けに押し倒されてしまった。 「キリッ……?」 「すみません……。も、だめ……。おれ限界……」 「えっ?あっ!いやあああっ!」 「は、あ……、あつ、い……」 そしてキリの猛ったペニスが僕の蕾を押し広げ、肉壁を擦りながら挿入された。 こんなのは始めてだった。いつもならじれったくなる程に愛撫を繰り返し、少しずつ少しずつひとつになっていくのに。 慣らしもせずに挿れられたこと、挿れることが出来たこと、そしてそれにたまらなく感じている自分自身が、何だかとても信じられなくて。 「あっ……!ひっ、あっ、あ!ああっ!」 「は、あ、……さ、すけ、さん……」 「あうっ!あ、……あ、あ、キリぃっ……あついっ……あついっ……!」 だが何を考えようとも、それらはいつもより熱いキリの牙によってぐちゃぐちゃに掻き乱されていった。 熱い。繋がっている部分が比喩ではない程に溶かされていくようで。 最早どっちの熱なのか、どっちの体なのか、そんな些細なことさえも分からなくなってくる。 「あぅっ……!ひっ!あ、ああっ!あんっ!」 「佐介さん……佐介さん、トロトロです……佐介さんのナカ、すっげぇ熱くて、溶けちゃいそ……」 「いやっ!耳元で、喋んないでっ……!」 「気持ちいい、佐介さん、気持ちいい、です……、ん……んっ……」 キリは熱に浮かされたのか吐息混じりで呟き、そして喘ぎながらも、容赦なく腰を打ち付けてくる。 そしてその動きが一段と激しさを増し、果てを予感させた。 「あっ!あっ!そ、な……したら、イッ、ちゃっ……!」 「イきましょ……?一緒に、一緒に気持ちよくなりましょ……?」 「あ、キリっ……!キリっ!」 「んっ、さすけさん……すき……すき……、ん、あ……」 「あっ……!あ、ああっ!」 どこか舌っ足らずに、可愛らしげに囁いたキリにときめいた刹那、キリが欲を吐き出したのを奥で感じて、僕も絶頂を迎えた。 粘着質な音は消え、代わりに荒い呼吸音が響き始める。 僕を抱きしめたままぴったりとくっついて離れないキリ。銀色を無意識に撫でると、キリは甘えるように擦り寄ってきた。 「キリ……?」 「さすけさん……。きもちい、です……」 「そうか……」 ついさっきまでの荒々しさは何処へやら。 打って変わって何だかとても甘えん坊になったキリ。 不思議に思いつつも髪を撫で続けていると、そういえば直ぐに我を忘れて自慰をした僕とは違い、キリは結構長い時間、欲を吐き出していなかったという事に気がついた。 むしろ最初の内は僕を巻き込むまいと、たったひとりで衝動を耐え続けて。 気が触れてしまいそうな程の熱だ。 キリも結局は理性を失ってしまったとはいえ、それまで一所懸命に我慢していたために、流石に疲れてしまったのだろう。 「……かいちょ」 「キリ?」 するとキリが埋めていた顔をあげて、僕を見据えた。 肉食獣には程遠い、可愛らしいキリの瞳。小動物のような、いつものキリだ。 「なんか、すみません……」 「いや……、べつに……」 「たぶん、これ、秘薬じゃなくて」 「ん?」 「媚薬だったんじゃないでしょうか……?」 「なに……?」 (媚薬……だと……?) キリの言葉に思考が一瞬真っ白になり、髪を撫でていた手が止まった。 そして、そういえば文字が滲んでいたなと、カタカナだったし、単純に秘薬と媚薬を読み間違えてしまったのかと理解したところで、一気に後悔の波がどっと押し寄せた。 (…………数分前の僕を殴ってやりたい……!) そんな淫靡な薬を作ろうと僕は意気込み、あろうことか服用し、勢いのままセックスしてしまったというのだろうか。 ああ、何てみだら。何てふしだら。 「……」 「かいちょ……?」 しかし、言い出しっぺは僕だった。 そしてキリの警告を無視したのも。 自身の失態に悶々とし、小さく左の拳を震わせる。 そこで、不思議そうに僕を見つめてくるキリに気づいた。 欲のかけらも見られない、純真な瞳だ。 あぁ、巻き込んでしまってすまないな、と、握っていた拳を解き、キリの頬を撫でた。 キリはくすぐったそうに片目を閉じて微笑み、再度顔を埋めて甘えてきて。 そんなキリに心がときめいた。 (……ん?) ただそこで、ひとつの疑問。 (……これのどこが滋養強壮なんだ?) 滋養強壮とは到底結び付かない、ただの強力な媚薬だった様に思える。 というか加藤一族の使用目的が不明だ。 第一紛らわし過ぎではないだろうか。 何故漢方薬に混ざって媚薬の作り方が記載されているのか。 しかも1番最後のページに意味ありげに記すなど、作って飲んで下さいと言っているようなものだ。 そして溢れる疑問はひとつの結論を導きだした。 (すべてキリのご先祖様のせいではないか?) 責任転嫁とも取れる答え。 しかし、あながち間違いではないだろう。 そもそも、キリの父がしっかりと整理整頓しておけば、こんな媚薬など作る展開にはならなかったのに。 「キリ……」 「はい?」 「ひとつ言わせてくれ」 「何でしょうか?」 そして何より、僕に媚薬を飲ませたのは他でもないキリではないか。 僕は未だまったりしているキリに向かって、口を開いた。 「キリのばかっ」 僕は目の前の、小動物の顔を持った肉食獣に食べられてしまった。 可愛らしい見目とは裏腹な、野性的な本能。 その二面性と鋭い牙に翻弄され、餌食になってしまったというわけだ。 噛み付かれただけなら振り切ることは出来たのに、牙は淫靡な毒を持っていて。 侵される前に毒を出し切ろうと試みたものの、その間はとても無防備であったため、結局はすべてが無駄な抵抗に終わってしまった。 ちょっと悔しい。何だか、まんまと加藤一族に踊らされてしまったような気がするのだ。 だからこれは最後の抵抗。腹ごしらえが済んで心地よさ気にくつろいでいるキリに、牙を剥いてやった。 別にセックスが嫌いだという訳ではない。むしろ大が付いても問題無い位には好きだ。 ただ、黙って食べられるだけなんて、全くもって気に食わないだけ。 僕だって鋭い牙をもつ肉食獣なのだ。だから、これくらいの悪態ついたって、ちょっとくらい噛み付いたって、いいだろう? そんな利己的な屁理屈に噛み付かれたキリは、えっ、と顔をあげ、瞳を見開いた。 そこには肉食獣の面影なんて全くなく、やっぱりとても可愛いらしいキリがいて。 敵わないな、と、僕は牙を収めて笑みを零し、左手で痛んだ銀色を撫で、未だ不思議そうに瞳を丸めている小動物を目一杯甘やかしてやった。 fin ヒヨ子様より頂いた妄想。 ・椿「キリのばかっ」 ・薬使用で椿の自慰を手伝うキリ 砂斗様より頂いた妄想。 ・椿「キリのばか!」 友達か!と突っ込みましたよそりゃーもう。 まさかのセリフ総カブり(・∀・) なので2回使いました。 若干質感違うとか……ゆ、許してください!(爆発) いやーしかしたぎった。 あのね、にと里ね、前にもね、 椿ちゃんにばかって言わせたことがあるのだけど、 やっぱり、ばかって……良いよね……。良いよね……。フフフフフ……(爆発) はーたぎった! 自慰を手伝うという萌アイテムがあんまり活かされてない気もしますが! 頼む!これを受け取ってくれ!(^ω^)つ空気 ありがとうございました! |