キリは椿の正しく着用された制服をゆっくり脱がしていった。
ネクタイを解き、ボタンを外して、露になった飾りにそっと触れ、抱きしめるように口づける。


「……ぁっ……」
「かいちょう……」
「ん、……キ、リ……」
「……貴方は綺麗ですよ、そして、可愛らしい」


順番に丁寧に指先で触れながら、時折舌を這わせて唾液を絡めていく。
それは椿を快感へ導くためというよりも、想いを伝えるための行為のようだった。
ここにいるのは自分だと、触れているのは自分だと、ただそれだけを伝えるための。
男に好き放題にされてしまった小さな桃色を慰めるように、ボロボロに傷ついた心を癒すように、キリはゆっくり丁寧に触れていく。
椿の声が儚さと高さを増して、キリの髪に指が絡められた。


「あ、あ……キ、リ……」
「会長……」


キリはそのまま、そっと陰部に指を滑らせた。
僅かであるが、椿のペニスは熱を孕み、その存在を主張している。
しかしキリはそのまま指を奥へ滑らせ、秘めた蕾を布ごしに撫であげた。


「……んっ……」


布ごしであったとは言え、男の直接的な欲を一方的に擦りつけられた箇所。
キリは労るように何度も何度もそこを撫で、椿の頬を優しく包み、唇をそっと触れ合わせた。


「……ここも、綺麗なままです……。好きです、愛しています……」


唇を離せば至近距離でふたりの視線が交わる。キリはそっと目を細めた。
そして慈しむように唇を幾度となく触れ合わせる。
余りに優しく椿を見つめるキリの眼差し。
椿の瞳からは再度大粒の涙が零れだした。


「ふっ……ぅ……」
「か、い、ちょう……?」
「んん……、ふぅぅん…………」


キリは焦った。
間接的な、男との行為を思い出させるような、そんな刺激が、椿の傷口をえぐってしまったのかと。
自身の行動は思慮に欠けていたのかと、キリは自責の念にかられた。
声を押し殺すように、尚も椿は涙を流し続ける。
キリは胸を締め付けられ、急いで臀部から手を離し、椿の髪を優しく撫でた。


「す、すみません……、俺……」
「……ぼくは」
「え……?」
「綺麗なままか……?」
「会長……?」


だが、か細い声で紡がれたのは、キリが抱えた懸念とは少し異なる言葉。
キリはポツリと疑問符をこぼす。
椿はただ一心にキリを見据えていた。


「君は、こんなぼくを、これからも綺麗だと言って……、抱いてくれるか……?」


椿は不安だった。
不本意とはいえ、キリ以外の男に触れることを許した自分を、キリは許してくれるのだろうかと。
キリはこれからも優しく、自分に触れてくれるのだろうかと。
自分に触れたらキリも汚れてしまうと思いながら、それでも椿はキリに触れてもらいたいと、そう願っていた。
キリを愛しているからだ。

椿の真っ直ぐな心はキリを想い、今もひたすら涙を流し続ける。
悲しげな眼差しでキリを見据える椿。
キリはその眼差しを受け、プツリと、自分の中で何かが切れた音を聞いた。


「……んっ!んぅっ!」


キリは衝動に任せ、椿へ荒々しく唇を押し付けた。
苛立ちにも似た感情を抱きながら、椿の呼吸を奪い続ける。


(……さっきから、一体何を言っているんだ、この人はっ……!)


そもそも、すべては自分を守るためだったではないか。
ふがいない自分を守るために椿は苦渋し、自らを犠牲にして、そして心に傷を負った。

けれど、心に傷を負ったのは椿だけではない。キリの心も同じように傷付いていた。
自分のせいで、大切な人が目の前で体を好き放題に触れられていた。
辛くて、悲しくて、苦しくて、痛かった。

大切なものを守れる程に、椿もキリも人並み以上に強い。
だけど心は違う。
鍛えているからといって、心も比例して強くなっている訳ではない。
体と同じく、心も付けられた傷が癒えたときに強くなっていく。
そして強い心を手に入れるには沢山の痛みと、その傷を癒すための長い時間が必要なのだ。
経験的にも、年齢的にも、ふたりの心はまだ幼く脆い。
あのような刺激を受けて平然としていられる程、ふたりの心は強くないのだ。


(……会長……)


キリは椿を抱く際、その実ひどく怯えていた。
抱かせてくれるのだろうかと。椿は自らを汚れてしまったと卑下し、涙を流した。そんな事ないというのに。
だが椿は行為がトラウマになり、自らを汚れたものとして認識するようになって、触れることを許してくれなくなるのではないのかと、そう思ったのだ。

でも、それは杞憂に、そして椿の問いは愚問に終わった。


(抱いてくれるか、なんて……)


本当に、何を言っているのだろうかと、
そして人の言ったことをちゃんと聞いていたのだろうかと、キリは思う。
キリは椿に触れることで、ゆっくりと傷が癒えていくのを感じていた。
そして同じように、自分が触れることで、椿の体が、椿の心が、椿のすべてが癒されるというのなら。
キリは椿が自分を守ってくれたように、自分のすべてをもってして椿を守り抜いていきたいと、そう強く誓っていた。
先輩だから、仲間だから、恋人だから守るではない。

椿だからだ。


「……っは、キリ……」
「会長」
「……な、んだ?」
「もう一度言います」
「え……?」
「貴方を抱きたい」
「……っ……」
「抱いてあげるではなく、貴方を抱きたいんです、俺は」


キリは泣き出しそうな程に声を震わせ、椿の瞳を見据えた。
そして再度唇を合わせ、椿の猛りに指を這わせる。


「んっ!あっ……!」
「かいちょう……」


布ごしではない直接的な刺激。
クチュクチュと、言葉にすれば可愛らしい音が直ぐに響く。
キリは椿の衣類をすべて脱がした。
そして先走りを指に絡めて、恥部を性急に、それでも丁寧に解し始める。
抵抗を全くせず、自らに体を開く椿が、キリはひたすら愛おしく感じた。
先程のような、理不尽な圧力などここには存在しない。
椿が抵抗しないのは、自分を愛し、求め、心を許しているからなのだ。
その椿の想いだけで、キリは心が満たされ、達してしまいそうな程に自身が高ぶるのを一心に感じた。
そして自身を纏う衣類もすべて取り払い、猛ったペニスを椿の蕾に宛がう。


「あっ、あ……」
「会長、挿れますよ……?」
「んっ……、欲しい……、僕を、キリで、いっぱいにしてっ……」
「かいちょうっ……!」
「あっ!」


椿の誘いに、キリはペニスを一気に埋めた。
ヌルヌルとした肉壁はキリを歓迎するかのようにペニスに絡み付く。
根本まで挿入したところで、キリは椿の瞳を見つめ、唇を合わせた。


「んっ、ふっ、んん……!」
「ん、かい、ちょう……っ!」
「ふあっ、あっ、あ、あ、ああ……っ!」


舌を絡ませながら激しい抽送を開始する。
キリは腰を動かしたまま、椿に触れた。
髪に、頬に、胸に、椿のすべてに唇を這わせ、強く椿を抱きしめる。
触れ合う部分があつくて、柔らかくて、ただ気持ち良い。
ふたりは目の前の愛しい恋人の温もりに酔いしれ、全身にほとばしる甘い快楽に笑みを浮かべた。


「ぁ、あ……、キリ……!」
「は、い……」
「セックスって、不思議、だな……」
「えっ……?」
「さっきは、気持ち悪くて、仕方なかったのに……、キリというだけで、今は、こんなに、気持ちいいなんて……ん……!」
「……っ……!」


椿の言葉に、キリは頭が真っ白になった。
そして何も考えられなくなった脳に代わり、キリの本能が一気に反応し、椿の想いに歓喜する。


「え……?」


その猛りは陰部を合わせている椿にもしっかりと伝わり、椿は不思議そうにキリを見やった。


「キリ……?君、いま、すごく、おっきくなった……」
「……っ会長」
「んっ……?」
「俺、貴方を抱けて幸せです……」
「え?……んっ、ぁ……!」


キリは枷が外れたように、椿の体を揺さ振った。
キリの腕の中で、椿は与えられる快楽を一心に享受する。
あつくて、甘くて、愛しい刺激。
ふわりふわりと、心がそっと微笑んだ。


「あ……!あっ、あ、あん……!キリぃ!キリぃ……!」
「はっ、あ、かいちょ、愛してます……!」
「あっ、ぼく……も、愛してるっ!キリっ!好きだっ…………!」





陽の光の届かない真っ暗な絶望の中、椿はただキリのことだけを想っていた。
そして同時に、心の片隅で怯えていた。
歪んだ色に汚される自分は、このまま暗闇の果てまで堕ちていき、2度と光を見られなくなるのだろうかと。

ただ、キリが無事ならそれでもいいと思ったのも事実だった。
キリを想いながら、キリの無事を願いながら、機械的に事を済ませようと、まぶたを閉じた。
ただ、触れられる度に感じる突き刺さすような痛みが、椿の心をえぐり、傷つけていった。
当然だ。椿は機械ではない。心を持った人間で、その心はキリへの想いでそっと守られている。
触れていいのはキリだけなのだ。椿の幼く脆い、キリへの想いで一所懸命に揺れている心に触れていいのは。
更にその心を大切に包んでいる体にも、触れていいのはキリだけだ。

そして今、椿は大切な人に優しく触れられ、包まれ、愛されている。
傷付いた心がゆっくりと、キリで満たされて、癒されていくのを感じていた。


「あ、ぁ、あ……キリっ、もう……!」
「は、い……!おれ、も、……んっ!」
「あ、あ、あああっ……!」


ふたりは同時に果てた。
不規則な呼吸を繰り返しながら、それでも尚、互いに相手の唇を求め合う。


「ん、ふ……、ん……」
「……ん、は、かいちょう……」
「なん、だ……?」


唇を離し、キリは椿を見据えた。
そして右の手の平で椿の頬に優しく触れ、そっとその口を開く。


「……守って下さり、ありがとうございました」


柔らかな笑みを浮かべて、キリは椿の頬を撫でた。
予想だにしなかったキリの言葉に、椿は大きく目を見開く。


(……僕は、キリを…………守れたのだろうか……)


キリを守ることが出来なかったと、椿はずっと悔やんでいた。
体を呈した甲斐もなく、キリは傷付けられてしまったと。

けれど今、キリは笑っている。
椿の目の前で、花が咲いたような微笑みをそっと浮かべて、キリは椿をその瞳に映している。


(……僕は……)


キリの微笑みに、椿のしがらみがさらさらと消えていった。
そして、心の底から安堵する。
自分はキリを守れたのだ。目の前にある、大切な人の屈託のない笑顔。
これが何よりの証であるといえるだろう。


「…………きみを守れて、よかった……」


椿は同じように優しく目を細め、その瞳にキリを映した。

椿は思った。
キリが傍にいるだけで、きっと自分は心も体も強くなれる。
そしてそれは比喩ではなく、誇張でもない。
何故なら今日、椿はキリを守り、キリに守られ、キリを愛し、キリに愛され、心が少しだけ強くなっていったような、そんな気がしたから。

キリを映している瞳にはひとひらの陰りさえ見られない。
椿の真っ直ぐな心をそのまま反映している、遮られた陽の光を思わせる輝きが、キリをそっと照らしていた。





fin





中井様より頂いた妄想。
・椿「ボクが君を守る!」
・複数の敵に囲まれてる感じ
・出来れば18禁

(^q^)hshs。

モブ椿にしようかと思いつつ、駄目だ、キリちゃん可哀相過ぎる!と結局あまーい展開に。
甘党ですみません(爆発)
そして三角絞めは世界柔道の影響です。マニアックですみません(爆発)

カタカナと感嘆符と椿の両親がログアウトしてますがお許しくださっ(爆発)

ありがとうございました!





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