ファイター! それは会長との校内パトロール中に気づいた。 会長の斜め後ろを歩きながら校舎内を見ていると、所々である同様の変化が見受けられたのだ。 「会長」 「なんだ?」 「さっきから気になってたんですけど、校舎の壁が新しくなってる所がありますよね。場所はばらばらなのに、面積はどれも同じくらいで……」 「そっ……それは!」 「ほら、ここにもあります」 俺は新しく見つけた箇所を指差し、会長に告げる。 そう。 明らかに壁が損壊した跡があるのだ。 とても綺麗に修繕されてはいるものの、コンクリートの微々たる色の違いまでは隠しきれていない。 老朽化にしてはあまりにも場所が拡散しているし、このままだと危険ではないだろうか。 身体能力には自信があるけれど、万が一校舎が大規模な損壊でもしたらいくらなんでも会長ひとりをお守りするのが精一杯だ。 「これ、修繕した跡ですよね?築何年でしょうか?場合よっては校舎全体の補強が必要かと思いますが……」 「……」 「会長?」 「……んっ?あっ……そっ、そうだな、うむ」 「……いかがなさいました?どこがお体の調子でも……」 「いやいやいやいや問題ない!非常に快調だ!すこぶる快調だ!会長なだけにな!」 「そうですか……」 そこでもうひとつ気付く。 会長の様子がおかしい。 会長のお言葉をお借りするなら、すこぶるおかしい。 有り得ない駄洒落を口走り、分かりやすい程に視線を逸らしていて、短い前髪から覗く額にはうっすらと汗がにじんでいる。 「会長……何か俺に隠してません?」 すると、擬音が聞こえてしまいそうな程に、会長は大袈裟に肩を揺らした。 視線を逸らしたまま、先程とは比較出来ない程に汗をダラダラと流し始めている。 怪しい。 主君を疑うなんて無礼極まりないことは百も承知だが、流石にこれは分かりやす過ぎる。 俺は会長をじっと凝視した。 「会長?」 「……うっ……」 「気になります。何かご存知でしたら、教えていただけないでしょうか?」 瞳を逸らすことなく会長を見つめ続けていると、会長はあからさまに目を泳がせた。 ちらっと俺と目が合うと、会長はゆっくりと視線を斜め下に動かし、右手でブレザーの左ポケットの辺りを握りしめる。 そして言い出し辛そうに左手を柔らかく握りしめ、口元に添えた。 「……くが……」 「え……?」 「……その、僕が……」 「……ん?」 ぼそっと呟かれた言葉に思わず疑問符を投げ返す。 「……すみません、今、何と?」 「……だから、僕が、……殴って…………こわした」 「………………え?」 会長の言葉に思わず固まる。 今なんとおっしゃった? 「……え。……会長が……?」 「そうだ……」 「…………あ、えと、その……。その際、……お怪我は?」 「……ああ、それは、全く問題ない」 「そうですか……」 改めて壁を見やる。 きっと、常に生徒の見本であるべきと豪語し、何事にも真摯に取り組んでいる会長だからこそ、自らその拳で何箇所も壁を破壊してしまっていることに後ろめたさを感じているのだろう。 だがそれ以上に着目すべき点がないだろうか。 (だってこれ……) (コンクリートじゃねーのかよ!) 俺の突っ込みを知りもしない会長は顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を伏せている。 普段ならそんな会長に鼻から血を流すほどの高ぶりを覚えるのだが、俺はそれ以上に焦っていた。 俺は本当に会長をお守りすることが出来るのだろうか? 会長は自らの拳でコンクリートを破壊することが出来、更には無傷。 入学当初は様々な部活からオファーが来ていたともいうし、噂によると最近では何十人ものヤンキーにボコボコにされ、更には自分よりもでかい男(※藪田)に力いっぱい何発も殴られたにも関わらず、そのダメージをものともせずに拳ひとつで相手(※藪田)を何十メートルも吹っ飛ばしたらしい。 俺は身体能力には自信がある。 だが、自らの拳を使うことは滅多にない。 どちらかと言えば忍は道具を巧に利用して相手を倒すことが主流であるから、いざ身ぐるみを全て剥がされた場合(そんな失態は晒さないが)その時の能力は不透明だ。 万が一道具を全て奪われたら、その時俺は会長より強いのだろうか? 会長をこの身ひとつで、この拳ひとつでお守りすることが本当に出来るのだろうか? 普段は愛くるしい容姿につい忘れがちになってしまうが、会長は自分よりもでかい男(※藪田)を、たった一発のパンチでぶちのめすことが出来るのだ。 しかも相当ダメージを受けた体であっても。 (……やべぇ) これは、非常にやばいだろう。 今度は俺の体から滴るほどに汗が吹き出る。 このままではいけない。 「会長!」 「なっ……何だ?」 「俺と勝負してください!」 「はあぁ!?」 とりあえず、俺は会長よりも力があって、本当に会長をお守りすることが出来るのか、それだけでも確かめたい。 「急に何なんだ!」 「お願いします!是非俺と!」 俺は会長の左手を握りしめ懇願する。 「是非!」 全ては俺の存在意義をしっかりと確立させ、会長の安全を保障するためなのだ。 → |