※(神の)225話にたぎった結果の話
※若干椿ちゃんブラック
※若干ね!
※しかし毎度毎度キャラ崩壊すまんw
※だが後悔はしていない
※(爆発)


馬鹿犬と弾丸


工場跡。あまり人気のないこの帰り道を歩いていた。いつものように会長の一歩後ろを俺は。
会長の後ろ姿は相変わらず凛々しくて、そして少し危なっかしい。
ほら今も、会長は前に出した右足の先、ひっそりと佇む小石の存在に気付いてはいないようだった。
すっと体を滑らせて、会長の右足と上体を支える。会長は驚いたような眼差しで、俺の顔を真っ直ぐに見据えた。


「な、何だ?」
「小石が……」
「あ、ああ……。ありがとう」
「いえ」


俺の言葉に会長は視線を足元に移し、再度俺の瞳を捉えた。
戸惑うように告げられた言葉は会長の表情も同じ様に彩る。
短く返事をして支えていた両手を正すと、会長は小さなため息をひとつだけ、少しぬるい春の空気にそっと溶かした。


「キリ、その、ありがたいのは確かにそうなのだが、その、何だ。そんな過保護に僕を守らなくても平気だぞ」
「……しかし」
「外傷による痛みなどとうに慣れている。伊達に格闘技を習っていた訳ではないのだから」
「……すみません」
「いや、別に謝らなくてもいいんだ」
「はい……」


再度口をついて出そうになる謝罪を遮るように、会長はまた前を向いて歩みを進めた。俺は口をつぐんで何も言わずにその一歩後ろに続く。

そうして足音の他には何も聞こえない静寂が訪れた。
元々口数の少ない俺達だからこれは取り分け珍しい事ではないのだけれど。
それでもやはり、少し居心地の悪さを感じてしまうのは、昨日会長から発砲された憤りの弾丸のせいだろう。

会長がおっしゃっている事も分からない訳ではない。
実際、支えた身体は程よく引き締まっており、長年の鍛練の成果を十分に物語っていた。

それでも、会長は未だ誤解している。
俺は会長を見くびっているのでも、子供扱いしているのでもない。
ただ、俺が傍に居る間はどんなに小さな傷も、どんなに小さな痛みでさえも、会長に与えたくはないだけなのだ。
この身を賭しても俺は会長を守り抜いていきたいと誓っているだけで、決してそれは慢心からくるものではなく、単純に、言わば会長を想い慕う恋心の延長に存在している庇護欲といえる。

この気持ちが会長に伝わって欲しいとは思わない。けれど、きっと今、会長はご自身を卑下し、沈んでいる。
それならばいっそ、俺の想いが真っ直ぐ、会長に届いたならいいのにと、願わずにはいられない。
言葉を紡ぐのが苦手な俺の想いが、真っ直ぐ、曲がることなく、会長に。
それこそ昨日会長から、そして今朝この場所で受けた、あの銃撃のような鋭さで。


「……痛いか?」
「え?」
「珍しく傷だらけではないか」


ふと会長は歩みを止め、物思いにふけっていた俺の顔を覗き込み、声を発した。
今朝受けた生傷の事を言っているのだと容易に理解出来る。
何だかんだで優しいお方だ、会長は。
会長はご実家が病院だ。だから会長と同じように、幼い頃から厳しい鍛練を重ねていた俺にとってはこんな傷、大した問題ではない事位ひと目で分かっているはずなのに。
あんな飛び道具に頼らなければ何の力も発揮出来ない軍団に付けられた傷なんて、昨日会長に撃ち抜かれた言葉の痛みに比べれば、何て事もない。


「……平気です。ご心配いただき恐縮な位です」
「それならいいが……。本当、珍しいな。キリがそんな傷だらけになるなんて」
「少し人数が多かったので。それに向こうは武器を持っていましたから……。状況も特殊でしたし」
「……ちなみに何人だ?」
「おおよそで30人はいたかと……」
「なっ……!はぁ…………」


核心は告げずとも、嘘は言っていない。
しかし、会長は俺が返した言葉に大きな目をいっぱいに見開くと、今度はその瞳のような大きいため息を無造作に吐いた。


「……会長?」
「君のことだから、決して自らケンカを売ったのではないと思うが」
「えぇ……はい……」
「それに、僕が原因でもあるけれど、……それでもだ。あまり無茶をするな。いくら君といえど、敵わないものくらいあるだろう」


恐らく、会長は俺の話から相手が多勢であった事と、武器を所持していた事を知り、心配してくれたのだろう。
正直、大人数であろうと、武器が拳銃であろうと、俺にしてみれば対した脅威ではない。けれど、それでもやはり会長は優しいお方だと感じずにはいられない。
こんなはた迷惑とも言われかねない俺の事を、行動を、会長は頭ごなしに責める事はない。


「……ありがたきお言葉」


不謹慎にも高鳴る胸を抑えて、目一杯の感謝を告げる。
それでも、やっぱり会長には何ひとつも伝わってはいないのだろう。俺の気持ち、会長を想う全て。

俺は会長を守るために受ける傷なら、例えそれが堪え切れない痛みであろうと、一生残る傷になってしまおうとも、全くもって厭わないのだから。


「……ん?」


すると、会長がおもむろに俺の胸に指を突き立てた。
利き手である左手の、俺より少し小さな人差し指。
幼子がするように、拳銃のように形を変えた左手の人差し指で、俺の心臓をひっそりと捉えて。


「会長?」
「流石の君も、これは避けきれまい」
「……は、はぁ……」
「まぁ、日本では法律で禁止されているから、こんな事は有り得ないとは思うけれど。それでも、米国では当たり前に存在しているから、君の言う通り、脅威は意外と背中合わせに在るのかもしれない」
「……えぇ」
「君が何をしようが君の勝手だ。だが、脅威は僕だけに降り注ぐものではない。もし君が僕の見えない所で勝手に消えたら、僕は君を絶対に許さないからな」
「会長?」
「それと、これは命令だ。これから先、例えそれが僕を守る為であろうとも、君が他人に痕を付けられるなんて事を甘受するんじゃないぞ。もしそんな事をしたなら、僕はこの人差し指を本物にして、君の心臓を撃ち抜いてやる」
「は、い……」


余りに真剣な会長の眼差し、それと行動、そして言わんとしてる事。それらがよく分からず、俺の相槌は生返事となって会長に届いてしまう。
そんな俺の疑問符を悟ったのか、会長は呆れたようにため息を吐くと、今度は少し怒ったような眼差しを俺に向け、口を開いた。


「か、いちょう……?」
「……いや、もういい。君は意外と馬鹿だし、この際はっきりと言っておく」
「え……?」
「君は自分が誰のものであるのかちゃんと分かっているのか?生傷をこんなにこさえてくるなんて……」
「かいちょ……」
「いいか、君の全ては僕のものだ。その事を今からこの心臓にしっかりと刻み付けておけ。分かったな?この馬鹿犬が」
「なっ……」
「バーン」


会長はまくし立てるように言葉を紡ぎ、最後に拳銃の引き金を躊躇なく引くと、そのまま俺の胸倉を掴んで力強く俺の顔を引き寄せた。
そして俺の唇に噛み付くようなキスをして。
その後、会長は何事も無かったかのように前を向いて、相変わらず凛々しく、そして少しだけ危なっかしく、歩みを始めた。


「……う、あ……」


会長。その脅威、実はつい今朝この場所で、しっかりと有り得ていました。

そんな言葉が脳裏を巡ったのだけれど、口をついて出たのは全く意味を持たない、ガラクタのような言葉だけだった。
余りに唐突な会長の感触に、体中が悲鳴のように体温を上げる。

あつい。自分の体であるのに、まるで全く別の生き物であるかと勘違いしてしまう程に、ただひたすら全身があつくて。
春のぬるい空気ですら、今はとても冷たく感じる。

思わぬ銃撃に、心臓が止まってしまったのかと感じた。
しかし、撃ち抜かれた心臓は止まる所か勢いよく動きを増して、相も変わらず体温を上げていく。
ドクン、ドクン、と高鳴る鼓動の低音が、体の内側から鮮明に鼓膜へと響き渡って、その躍動を俺に知らせる。


(……や、ばい………)


思わず腰が抜けて、その場に力無く座り込んでしまった。
少しずつ会長が小さくなっていくのだけど、俺はその背中を呆然と見つめる事しか出来なくて。

拳銃なんて、いや、拳銃に限らず、瞳に映る全ての物理攻撃など、俺には通用しないし、受け流す事も弾き返す事も容易い。
こうして傷を負ってしまったのだって、言ってしまえば状況が状況だったからだ。
傷を負わないようにする事以前に、会長に気付かれないようにする事が大前提だったのだから。

ただ、俺はたった今、見えない弾丸で心臓を撃ち抜かれてしまった。
何だか理不尽に思えるような会長の理屈も、さりげなく馬鹿とも犬とも罵倒された事も、全て弾丸の衝撃が吸収して、形を変えてしまったようで。


「うあ…………好き。……やば……やべ……」


漸く絞り出した言葉は何故か片言で、気持ちの断片しか汲み取れない。
ああ、だから馬鹿とか犬とか言われるんだろうなと思ったが、会長の愛の弾丸を心臓へ直接発砲された俺にとってはそんな事、最早どうでもよかった。


「キリ?」
「は、はい!」
「何してるんだ、そんな所に座り込んで。汚いだろう。早くこっちに来い」
「あ、その……」
「……キリ?」
「…………腰が、抜けて……」
「はぁ?」


いつの間にか直ぐ近くにまで戻って来ていた会長に起立を促されるも、体が全く言うことを聞かない。
情けないとは思いつつその旨を伝えると、会長は少し呆れながらも俺の目の前へ歩み寄り、膝をついて目線を合わせてくれた。


「一体どうしたんだ?真っ赤じゃないか」
「だって……、さっき、会長が……」
「僕?」
「会長が……」


言葉の途中で愛しさが溢れ、俺はもう何を言うのも止める事にした。
その代わり、会長の左手の人差し指を軽く握って、目の前にある胸に顔を埋める。
それから両手でそっと会長の胸元にしがみつくと、会長の体温を鮮明に感じて、その熱に頬が更に染まっていくのがはっきりと分かった。


「……今のキリなら、僕がわんと鳴けと命令しても、素直に従ってしまいそうだな」


くすくすと、会長が静かに笑う声が聞こえる。
そして会長の腕が俺の背中に回され、ぎゅっと抱きしめられたその瞬間、顔を上げずとも俺がわんと鳴いたのは言うまでもない。

いつも後ろにいるとは誓ったものの、たまにはこうして正面向いて、優しくぎゅっとされたいな、何て思ってしまった俺は、やっぱり会長の言う通り馬鹿なのかもしれない。
しかし、もう何でもいい。結局俺は会長の見えない弾丸に翻弄され、馬鹿にも犬にも成り下がってしまえるのだから。

きっと俺はこれから先も、会長には何ひとつも敵わないのであるのだろう。





fin





椿ちゃんに馬鹿犬って言わせたかっただけですすみませんしかし後悔などこれっぽっちもしていない何故なら馬鹿犬キリたんに激しく萌えてしまったからばかキリたん可愛いよ禿げ萌えるよすっげぇたぎるよ可愛いよhshs!(爆発)


225話から(にと里の中で勝手に)生まれたブラック椿ちゃんとばかキリたんのお粗末なお話でした!





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -