秋の日は釣瓶落とし。全くその通りだ。夏が過ぎると空は一気に太陽を覆い隠して、夜の色を伸ばしていく。暗くて黒い世界を広げていく。

けれど、今日はそれだけではないのだろう。


「確実に降んな、うん……」


朝から空は厚い雲に覆われていて、唯一の温もりを灯す太陽がすっぽりと隠されていた。
けれど、少し冷えるなと、オイラはいつもより多く重ね着をしただけで、肝心の傘を持ってくる事を忘れてしまっていた。
正直な所、降らないだろうと高を括っていた訳なのだけれど、天気はそんなに甘くはなかった。時間が過ぎる度に空はどんどん深みを増していくばかりで。

何だか色々憂鬱。五時間目を過ぎた休み時間の今、眠気と混ざりあった暗い気持ちは、オイラのほとんどないやる気を更に奪っていく一方だった。


「デイダラちゃん生きてる?」
「ギリギリ」
「何かダルそうじゃね?」
「傘ねぇんだよ、うん」
「ちょ、今日めっちゃ雨やばくなるってニュースになってたぞ?」
「ニュースなんか見ねぇっつの」


机に突っ伏しているオイラに飛段が変わらずのテンションで語りかけてくる。
それすら何だか煩わしくて、ゴロンと首だけを動かして飛段を見やれば、彼はオイラとは正反対にとても元気そうだった。


「デイダラちゃーん、今はケータイでもニュースが見られるんだぜ?見た方がいいぞ」
「うるせぇな。どうせ飛段だって占いくらいしか見てねぇんだろ、うん」
「信じる事ってのは大切だからな」
「出たお得意のナントカ様。つかお前は何でそんな元気なんだよ、うん」
「さっき寝た」
「あ、そ……。……オイラも六時間目は寝ようかな」
「そうしろそうしろ。それに次は科学だし。ちんぷんかんぷんだよな」
「え?次科学?」
「寝る授業はバッチリ押さえてる」


一気に目が冴えた。駄目だ、寝られない。と言うより寝たくない。
科学を選択科目に入れてないオイラは、その分彼の授業の機会が少ないのだ。

そんな思いを馳せた所でチャイムが鳴り、飛段は自分の席に戻っていった。
それと同時に彼が教室に現れた。相も変わらず彼はいつも時間ピッタリだ。
形だけの挨拶を済ませると、彼は艶やかな声で授業を始め、黒板に綺麗な字で暗号を書き並べていった。

オイラは全ての教科書が常に押し込まれている机の中から、科学の教科書とルーズリーフを取り出すと、目の前にある暗号を全て手元に書き記した。
訳がわからなくともこの授業だけは板書を欠かさない。けれど、どうしたって視界には彼が映る。
赤い髪、眠たげな瞳、小さな背丈。夢見心地。くらくらする。ぼんやりする。本当、全く年上になんか見えないのだから不思議なものだ。
しかし、白衣は良く似合っている。それが示すのは、決して埋める事などは出来もしない生きてきた時間の長さ。
もどかしい。どうして、もっと早くに生まれていれば、もしかしたら彼と並んでいられたかも知れないのに。

そんな心情を表すように、窓の外から弾ける音が鳴り出した。視線を向ければ、雨の筋が折り重なり、遠くの景色をぼんやりと歪ませていた。


「今日はここまで」


そこへ彼の声とチョークを置いた音が聞こえて、直後にチャイムの音が空間を引き裂いた。
終わってしまった。いつもこの瞬間には現実に引き戻される様な感覚が波のように押し寄せる。
彼がいないこの教室はただ侘しくて仕方なくて、オイラは深いため息を吐いていた。


「そんなに雨嫌なん?」


帰り支度をしていると、いつの間にか飛段が隣にいた。オイラと同じく中身のない鞄をぶらさげて、訝しげな眼差しを向けている。


「何だかな。憂鬱だぜ、うん」
「……部活終わるまで待ってようか?駅までなら傘入れてやるよ」
「……マジ?助かる、うん」
「んじゃあ教室居るから」
「うん。そんならオイラ今日は早めに切り上げる。……荷物も置いてこっかな。悪いな、うん」


雨が心底嫌な風に見えたのだろう。願ってもない飛段の言葉が飛び出して、オイラは素直に頷いた。
そして一時間後に約束をしてオイラは美術室へ向かった。

いつもより軽やかな身なり。けれど、それとは裏腹に沈んでいく気持ちも存在していて。
彼と共有する時間が減る事になる。天気予報を見なかった自分のせいではあるのだけれど、それでも飛段の気遣いを無駄にはしたくない。
ため息ひとつ。それと共に美術室の戸を開けて、オイラは席についた。彼を見やれば、相変わらず何かをキャンパスに描いていた。











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