※デイダラさん独白の旦那あぼん話。苦手な方は読まないで下さい。



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永遠なんてクソくらえだと思っていた。

オイラの美学は刹那の狭間に存在する事が前提として有る訳で、それは時が折り重なる一瞬の隙に何ものにも変えられない美しさが存在する事をオイラは知っているからであって、それは先にも後にも残る事などなく消え行くものであるために、その価値をより一層強いものにするのだという揺るぎ無い真理が存在すると信じて止まない訳であるからで、だから、彼の言う永久の美なんてもの、全くもって理解出来なかった。全くもって意味が分からなかった。一体彼は何を言っているのだろうと、全くもって意味不明だった。美しさは流れ行く時の節々に存在するものであるというのに、それをまるで無視した彼の価値観には飽きることなく腸が煮えくり返る思いだった。散る事もなく残り続けるなんてそんなもの、芸術なんかじゃねぇ。ただのガラクタだ。存在を確立した以上、それはそれ以上にもそれ以下にもならねぇんだ。何が永遠だ。何が永久の美だ。己の網膜から脳から全身から伝わる感覚と生まれる感情こそが価値をもつものであり、それを伝える美しさをもつものが儚く消え行く一瞬の彩りであり、それを人は芸術と呼ぶのだ。そびえるだけの木々を見て美しいと感動する奴がいるか?瞬き続ける星に願いを三度唱える奴がどこにいる。木々は葉を、花びらを纏い、ひらりと枯れ行くからこそ美しい。星は光り、輝き、さらりと流れ行くからこそ美しい。彼はそれを何一つも分かってはいなかった。木々を眺めては切なげに、星空を眺めてはいとおしげに、目を細めた。その横顔は壊れそうな程に悲しげで、壊れそうな程に綺麗だった。だからオイラはその度に問いかけた。何で、どうして、何をしたら何を思えばあんな微動だにしない只のモノに心を奪われると言うのだ。すると彼はその度に酷く気だるげな視線をオイラに向けて語ったのだ。移ろう時の中、何十年、何百年、何千年、何万年、何億年、姿形を保ち続けて残り続けるなんて、これ程に尊い存在が他にあるか?木々は巡る季節を彩り続け、星は夜の暗闇をただ一心に照らし続ける。イッシュンとか訳分かんねぇ事喚き散らしてるてめぇには一生かかってもこの美しさは理解出来ねぇだろうけどな。そして彼は決まって端正な嘲笑をオイラに寄越したのだ。彼の言葉を認めるなんて癪以外の何物でもなかったけれど、しかしオイラは本当に理解する事などは出来なかった。永遠なんて言うものの価値と、それを当たり前の様に語る彼、そこへ心身共に預けてしまった彼と言う存在も、というかもう彼の中身内側髪の先から爪の先までがオイラには全くもって理解出来なかった。いずれは誰しもが迎えるその時を、彼は彼という存在をもってひたすらに逆らい続けていた。彼は自身の掲げる美学を体現しながら、朽ちることのない何かをただ一心に追い掛けていた。ただ、オイラはそれに関してのみは、唯一共感する事が出来た。何故ならオイラ達は心臓に一番近い場所に、それぞれが描く理想の芸術の形を刻み付けていたのだから。趣向は違えどオイラと彼は紛れもない芸術家であり、物造りの才と技術に長けており、自身の芸術論を否定される事に酷く憤慨した。特に彼は気の短さもそこに相乗し、オイラが少し噛みついては容赦のない罵詈雑言を吐き出して、毒まみれの尾を振り回して、オイラを鋭く睨み続けた。いつだってそう。どんな時だって。だから、あの時だってそうだった。あれはいつもと変わらない日常の延長だった。対峙した相手をぶっ殺して、何もなかったみたいな顔をして、そして彼とどこかで落ち合うつもりだった。そこからまた季節を歩いていくはずだった。何となく存在していた距離を保ちながら、相も変わらず喧嘩をしながら、時折気紛れに共闘しながら、彼と何も変わらない毎日を、これからもずっと繰り返していくはずだったのに。





目障りな気色悪い面。耳障りな甲高いダミ声。落ち着きのない仕草。何もかもがまるで違う。彼は見惚れる程に綺麗な目鼻立ちだったし、聞き惚れる程に艶やかな声をしていたし、安らぐ程に大人しかった。違うんだ。何もかもが違い過ぎて、けれど、彼のつけていた指輪はいつも視界の端に映って、彼の愛した木々や星空はいつも視界の端に映って、だから、戸惑ってしまうんだ。彼はもう隣に居ないのに、彼の存在した証は何も変わらず傍にあって、何も変わらずに残っていて、何も変わらずに残り続けていて、それはたったひとつの大切な場所も例外ではなくて。深い深い根を這っている。消えそうにも散りそうにもない。そこはオイラの内側。ずっとずっと深い場所。まぶたを閉じても近づけない、どこにあるかも分からない、心の真ん中。そこに彼は彼という名の永遠を残した。苛立つばかりだ。散る事もなく残り続けるなんてそんなもの、ガラクタでしかなかったはずなのに、オイラの中に居る彼は尚も変わらず美しいまま。綺麗で、儚くて、まぶたを開いたら消え去ってしまいそうで、けれど、視界の端から彼はオイラを呼び覚ます。消えない。散らない。寝ても覚めても彼は、オイラの中にずっと居る。何も変わらずに、ずっと、ずっと。

だったらさ、何か言ってくれてもいいんじゃねぇかな。オイラの中に永遠に存在すると言うなら、答えてくれよ。旦那。何でアンタは木々の移ろいに焦がれていたんだ。何でアンタは星空の輝きに揺らいでいたんだ。何でだよ、何でだよ。もっかいオイラに教えてくれよ。得意気に口角釣り上げて、独特のゆったりとした話し方で、もっかいオイラに語ってくれよ。アンタの言う芸術ってやつ、もっかいオイラに話してくれよ。分かんねぇんだよ。アンタが居ねぇと何もかも訳分かんねぇんだよ。アンタが居ねぇって事さえ訳分かんねぇんだよ。ほんと、バカみてぇに弱点丸出しで、そんでそのまま死んじまって、だからオイラ、アンタまさか本当は、その時がくるのをずっと待っていたんじゃねぇかって思っちまったんだよ。本当はずっと、誰かにそうしてもらえる事を願っていたんじゃねぇかって思っちまったんだよ。そんな訳ねぇよな?単純にアンタは自信過剰なだけだったんだよな?そうだよな?なぁ、そうだろ?サソリの旦那。何とか言ってくれよ。何も言わねぇのかよ。だったら言ってやる。『永遠なんてクソくらえだ』どうだ、苛つくだろ?だからいつもみたいにオイラを罵倒してみろよ。お手製の毒振り撒いてみろよ。きつくきつく睨んでみろよ。なぁ。意味分かんねぇよ。マジで訳分かんねぇよ。何でアンタ死んでんだよ。死なねぇんじゃなかったのかよ。永遠なんじゃなかったのかよ。やっぱりオイラ、永久の美なんて、永遠なんて何をやっても理解出来ねぇ。オイラの中に居るアンタは綺麗だけど、儚くて美しいままだけど、何でか同じくらいにアンタが存在している場所が痛くて苦しい。辛いばっかりだ。アンタの言う永久の美とやらは、こんなにも痛いもんだったのか?アンタの言う永久の美とやらは、こんなにも苦しいもんだったのか?アンタの言う永久の美とやらは、こんなにも人を辛くさせるもんだったのか?そんなの違ぇだろ。芸術なんかじゃねぇだろ。やはり芸術とは儚く散りゆく一瞬の美の事を言うんだ。昇華するその刹那がひたすらに美しいんだ。だから早く消えてくれ。散ってくれ。オイラの中から跡形もなく消え去ってくれよ。何でアンタはオイラの中にずっと居るんだ。アンタは永遠とやらに心も体も髪の先から爪の先まで、切なく揺れる儚い横顔も震えるくらいに綺麗な嘲笑も、更にはアンタの命でさえも、全部、全部、全部、全部、ひとつ残らず奪われ尽くしてしまったくせに、何でアンタはオイラの中に、こんなにも愛しい面影だけを痛い程に残していったんだ。



面影に立つ



願う。彼が消え去る事を。
願う。彼が舞い戻る事を。
相反する願いが行き交う心の外側で、木々がひらりと葉を落とし、星がさらりと流れ落ちた。
時は移ろう。時は流れる。
そしてオイラは生きていく。
一瞬の美しさと永久の痛みに心を支配されたまま。





fin





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