世界は対で成り立っている。
光と影、静と動、有と無、生と死、エトセトラ。
何かひとつが存在すれば、必ずその真逆の極に、対を成す何かが存在している。
変化だって勿論ある。対立するふたつが交ざり合えば、どちらか片方に侵食され、元の性質と存在を無くし、どちらか片方に変わりゆく。それぞれがもつ性質には必ず優劣が存在するからだ。

けれど、そんな鏡合わせの世界の中、例外と呼べるものがある。
それは同じ性質でありながらもどこか暖と寒に似ていて、柔と剛を併せ持ち、優と厳でもあるようで、時には真と偽の仮面を被る複雑なもの。男と女だ。
雄と雌とも言えるこのふたつは不思議なもので、交わる事によって無から有を生み出していく。
何も無い世界に、新たな存在を生み出していく。
交ざり合った後に消える事もなく、性質が変わる事もなく。
(だから生けるものはいずれ死にゆくのだろう。光には影が、生には死が、同じ数だけ存在する)

ならば、例えば光と光が交わったなら、そこには何が生まれるのだろうか。
同じ個体が交わった際、何かが生まれるというのなら、そこに有るのは一体。

その答えは、無。
生、その中でも男と女、雄と雌が交わる他に、何かが生まれる事など無い。
例えば光と光が交ざり合い、輝きを増したなら、そこには深い深い影が出来るだけ。新たな光は生まれない。
だから、死も無い。何も変わらない。永遠に繰り返すだけ。無くなる事など決してなく。繰り返すばかり。


「……旦那」
「ん?」
「オイラ達がセックスする事に、意味なんてあるのかな」
「……あ?」
「何が生まれる訳でもねぇし、言っちまえば、ただの排泄行為だろ、うん」


サソリを組み敷いて、キスをして、光の消えた暗がりの中、デイダラはポツリと問いかけた。
ムードも何もあったものではない。急に何だコイツはと、サソリは怪訝そうに顔を歪め、デイダラを睨みつけた。
しかし、デイダラの表情には覇気がなく、更には迷子の様な面持ちでサソリを見つめていたために、サソリはすっかり毒気を抜かれてしまった。


「なんだ?お前、ほんとはセックス好きじゃねぇとか?」
「……そういう訳じゃねぇよ」
「だったらすればいいだろ」
「だから……、オイラが聞きたいのはそういう事じゃなくて」
「意味か?セックスする理由?」
「まあ、そんなところ……」
「ねぇよ、んなもん」
「……」
「俺かお前のどっちかが女だったら簡単だけどな。ガキを作るためにセックスをする。意味と理由だ」

「男と男がセックスしたところで、生まれるもんなんかありゃしねぇ」


淡々とサソリは言葉を紡いだ。それは正に正論で、極論だった。
同じ性質でありながら、交わり、何かを生み出す事が出来るのは、男と女、雄と雌だけ。その他のものが新たな何かを生みだす事は決して無い。
つまり、デイダラの言う通り、男と男がセックスをすると言う事は、所詮只の排泄行為にしか過ぎないのだ。

けれど、分かっていたとはいえ、デイダラは素直に納得する事など出来はしなかった。
何故なら、意味のない事だと理解しながらも、デイダラはサソリを求めてしまっているのだから。
意味など無い。理由も無い。それなのに何故、分かっているのに何故、自分はこんなにも苦しいのか。もやもやするのか。デイダラにはそれが分からなかった。


「……デイダラ」


悲しげに顔を歪めたまま黙り込んでしまったデイダラに、サソリは声をかけた。
デイダラは返事こそしなかったものの、塞ぎこんでいた視線をサソリに合わせ、彼の言葉を待った。


「物事の価値を決めるのは他人じゃない。俺だ」
「……は?」


デイダラは思わず瞳を丸めた。サソリの言葉が、その真意が、全くと言って良いほど汲み取れなかったのだ。
首をかしげる。しかし、そんな事など関係ないと言った風に、サソリは言葉を続けた。


「目の前のものが自分にとってどんな意味を持つのか。その基準を他人任せにしちまったら、自分の意思なんてあってないようなものだ」
「……うん」
「お前は何事もその真意を他人の価値観に委ねるのか?誰かに死ねと言われたら迷いなく死ぬのか?お前の意思は飾りか?」
「……」
「つまり、セックスにしろ何にしろ、てめぇが意味ねぇって思った瞬間に、それは本当に意味のないものになっちまうんだよ」


サソリはデイダラを押し退けて上体を起こした。より近い位置でふたりは視線を交錯させる事となる。
迷いと悟り。瞳が映すふたりの心。サソリは続ける。


「ただな、意味なんて求めたら際限ないぞ。その問いの果ては最早哲学だ。何故人は生きている。生きる意味は何なんだと」

「その答えを明確に示した奴などいるか?いねぇだろ。生きる意味さえ分かんねぇのに、セックスごときにいちいち答えを求めてたって仕方ねぇよ」

「確かに俺たちがセックスしても生まれるものは何もない。でもそれは逆に楽でいいけどな。余計な心配しねぇでセックスだけに没頭できる」

「何か生まれるものが欲しいなら俺じゃなくて女とセックスすればいい。お前若ぇし勢いあるし、ヤった傍からポンポン出来そうだな」

「意味が欲しいならそんなもん適当に取って付けろ。全ては自分の心持ちで決まるんだ」


長々と語り、サソリは口を閉ざした。
デイダラはサソリの言葉を反芻した。
意味は無い。けれど、自分の胸中に存在する確かなわだかまり。それは全く訳が分からなくて、苦しくて、それでも自分はサソリとのセックスを求めている事は明白で。

そう、それこそがサソリの言う意思であるのだ。
心。感情。気持ち。想い。本能。欲望。数多の呼び名を持つそれは人として生きている以上、前提として存在する確かなもの。誰しもが持ち寄る命の内側。
生まれたばかりの赤子でさえ、その表示に泣き声をあげるのだ。成長し、あらゆる手段を選択できる様になり、泣き叫ぶなどはしなくなっても、根底にあるものは何ひとつも変わらない。
単純であるようで、そのメカニズムは誰も証明しえない複雑なものであり、それが人であり、生きるという事なのだろう。
赤子が何かを求めて泣く事も、デイダラがサソリを求めてセックスする事も、全くもって同じ事。突き詰めれば生きているから。確かな感情がそこにあるから。

そこに意味を提げたところで、果たしてそれは本当に必要な事であるのだろうか。それこそ意味のない事ではないか。
心がそうしているのだ。理性ではない。本能が。


「……旦那」
「あん?」
「何か色々面白い事言ってくれたけど、とりあえずオイラは、アンタとヤりてぇわ、うん」
「やれば?」
「うん。やる」


デイダラはサソリを再度押し倒し、唇を触れ合わせた。その表情に最早迷いなどは皆目見当たらなかった。
サソリを求めている。だからセックスをする。何が残る事も無く、俗世に意味が無い事だと後ろ指を指されようとも、関係ない。

意味は無くても、確かな意思がここには有る。
つまるところデイダラは結局、サソリがただ好きなだけなのだ。


「サソリの旦那」
「ん?」
「旦那はさっき、オイラに女とヤればとか言ったじゃんか」
「ああ。それがどうした?」


サソリの体にゆっくりと触れながら、デイダラは同じく言葉を紡いだ。


「オイラ、旦那としかセックスする気にはならねぇよ、うん」
「……あ、そ」
「旦那は?つーか、どうして旦那はオイラとセックスするの?」
「……」
「オイラと同じって、そう思っていいのかい?」
「……お前がそう思うならそうなんじゃねぇの?」
「……何だよそれ。なに、もしかして旦那、他にも誰かとヤったりとかしてるわけ?うわ、嫌だ!オイラそんなん嫌だ、うん!」


サソリは黙る。全く、ムードも何もあったものではない。
あまりにもこうペチャクチャと話をされてしまっては、感じるものも感じない。


「……だったらそうならねぇ様にすりゃーいいだろ。くだらねぇ事考える暇があんならテクのひとつでも磨いて、必死で俺をヨガらせれば?デイダラしか欲しくねぇって、俺に言わせてイかせてみろよ」
「だん……」
「お喋りはここまでだ。デイダラ、舌出せ」
「した?」
「ほら、早く」
「……ん?」


疑問符を浮かべつつも素直に舌を見せたデイダラに、サソリは艶やかな笑みを浮かべて右手を伸ばした。
そしてデイダラの鮮やかな金色を指先に、柔らかな赤色を舌先に、それぞれ絡めながらキスをした。
わざとらしく鼻から抜ける甘い声をあげて、淫らな音をたてながら唾液を絡ませて、離れる事を嫌がる様に幾度となく角度を変えて、ひたすらにデイダラを煽る。

サソリからすれば二度目の中断なのだ。さっきからずっとやる気満々だと言うのに、デイダラの溢す言葉にいちいちおあずけをさせられて、正直もう耐えられない。


(他の誰か、なんて)


サソリは思う。そんな事あるはずも無いと言うのに。
既にサソリの心はたったひとりに染まっている。そうでなければ押し倒された際、瞬殺するに決まっているだろう。
何故セックスをするのか、の次は、何故自分とセックスをするのか、だ。
デイダラの内側にはほとほと呆れてしまうばかり。


(分かってねーよな、ほんと)


意味も理由も、少し考えれば分かる事であろうに。
サソリはひたすらに呆れる。けれど、その表情にはどこか愛しげな笑みが浮かんでいた。


「……やば」
「……今度は何だ」
「何かすっげーちんこ勃った、うん」
「………………良かったな……」


世界は対で成り立っている。
光と影、静と動、有と無、生と死、エトセトラ。
回る大地に身をあずけながら、対を成すものは変化を続け、無くなる事なく時を刻む。
その中で、同じ固体が交わる折、その性質は深みを増す。
光は眩しい輝きを放ち、静けさは凛と空気を澄まし、有するものは存在を主張し、生けるものは新たな命を生み出していく。

もしかしたら、生と生、その中でも男と男が交わる際も、何かが深みを増しながら生まれているのかも知れない。
生は、それぞれに意思を持ち合わせているために例外であるのだから。





世界はそれを愛と呼ぶんだぜ





fin


某伊坂氏と某サンボ●スターのお言葉いただきました。
更には旦那のセリフすっげー多いしなので最初は日記に小ネタで乗せようと思ったのですが案外長くなってしまった為あげてしまった。サーセン。

伊坂氏のグラスホッパーはほんと大好きです。
しかしそれ以上にホモと芸コンが大好きです(爆発)





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