夢を見た。 僕が今より少しだけ幼くて、あの人の背中を追いかけていた時の。 いつでもあの人は僕の歩むべき道の先に佇んでいて、振り向いては朗らかな笑顔と共に手を差し伸べてくれていた。 セピア色のような思い出。これから先色付く事もなければ、決して色褪せる事もない。 それでも、あの人と歩んだ道のりと、そのすべてに伴う色彩は、僕の内側に今でもはっきりと焼きついていて、僕の中の大切な場所を鮮やかに染め上げている。 あの人は笑った。僕の名前を呼んだ。そして僕に手を差し伸べた。 僕は笑った。あの人の名前を呼んだ。そしてあの人に手を伸ばした。 けれど。 「……っは……」 指先が触れ合うその刹那。 あの人はゆらり、消えていった。 *** 乱れた呼吸と、汗ばんだパジャマの不快感に目を覚ました。 朝の訪れと共に何度も目にする天井が何も変わらずにそこにある。 ピントを合わせるように滲んだ何かに焦点を集めると、同じく見慣れた僕の左手が弱々しく空を彷徨っていた。 握る。掴む。あるはずのない温もりを求めて、意味もなく、拳を作る。 けれど、僕の左手はその中に何ひとつも納められないまま、硬い爪の感覚を僕に知らせただけだった。 目頭が熱くなった。天井がゆらゆらと歪んでいって、呼吸をする事が辛くなった。 閉じた双眼を拳が無意識に覆うと、今度は僕のまぶたが作り出した暗闇の中に、あの人が浮かび上がった。 僕にそっと微笑みかけるあの人の笑顔が映った。 僕の名を気だるげに呼ぶあの人の声が聞こえた。 僕の癖毛を優しく撫でるあの人の体温が蘇った。 「……あ、がた、さ……」 あの人のすべてが、ここにあった。 ずっと続くものだと思っていた。いつか終わりがくるものだとも分かっていた。 そんな果てのない矛盾に目を背けながら、静かに流れる時間に身を任せて。 そして、僕達は辿り着いた。 あの人はずっと笑っていた。寂しさなんか、悲しさなんか、そんなものの存在なんてまるで何も知らないかのように。 弱さを零した僕の背を押して、立ち止まり、迷い続ける僕達の背を押して、光の差す未来への道しるべをしっかりと残して、無邪気な足跡を沢山残して、そして、去っていった。 僕はそれに応えるべく、笑顔であの人の手を握って、そして見送った。 大丈夫だと。心配など何ひとつないと。今度は僕があなたのように、光を照らしていくからと。 嘘ではなかった。あの時の気持ちに偽りなんか、あの人に向けた志に陰りなんか、そんなものどこにも見当たらなかった。 それなのに。 「……ひっ、く…………」 時折、涙が出るんだ。 あの人のいない校舎が、あの人のいない教室が、あの人のいない景色のすべてが、僕にはとても色褪せて見えて。 しばらく笑顔を見ていない。しばらく声を聞いていない。しばらく温もりを感じていない。 前を向いても、振り返っても、あの人は僕のまぶたの裏にしか、今は存在していないから。 会いたい。会いたい。会いたい。あの頃に戻りたい。 景色のすべてに色彩が存在していたあの頃に、あの人が傍に居る事が当たり前だったあの頃に、涙なんか知らなかったあの頃に、戻りたい。 溢れる嗚咽。零れる涙。決して叶う事のない願い。 あの人に向けた笑顔の裏側に、強く握り締めた手の平の中に、同じだけの寂しさと愛しさを隠し持っていたのだと、僕はあの人と離れて初めて気付いた。 *** 暗っw 卒業ネタだな。 しかし一体これがどう展開していくはずだったのか……。 やっぱりわからんw ほんとサーセン。 でもね、誰よりも続きが気になっているのはワタクシですよ(^ω^) (爆発) |