chloe







終着点未詳


※謙也高3財前高2の3月ぐらい
side:hikaru.Z


 どうしたら良かったっていうんだ。拒絶を示すように閉まった戸を前にヒステリックに叫べば(実際は声を張り上げることなんて出来ていなかったけれど)、自分はやけに情けなく小さく愚かに思えた。
 もう青年といえる男が、フィクションじみた理性のない女のように見えると、オレのすぐ後ろで冷めた目をしたオレが考える。酷く焦っている半面で、冷めた自分を感じても、それは冷静な思考を有しているのとは違って、突発性の人格乖離に近く、要はどうしようもないことに変わりなかった。

 中学で出会った彼への想いを自覚し告白できたのは、彼が高校を卒業する時だった。お互い好きあっていた自覚はあって(それがライクかラブか気付いたのは最近だけれど)、何と無しにいつまでもこの時間が続けばいいと思った。進学を期に容易に側にいることは出来なくなると(何せ医学部だ、忙しいに決まっている)焦るように、想いを告げれば、返ってきたのは「おれも好きやで、だからこのままでいよう」だ。
 このままでいたかったから、側にいられる方法を探したのに無情なものである。
 別に、付きあったことで関係に変化を求めていたわけではなく(もちろんキスしたいとかセックスしたいとか思わないわけではない)、敢えていうなら側にいてもいい約束が欲しかったのだ。常々こんな考えの女々しいこと、友人であっても変わらないことと思っていたのに、いざ自分自身が思いつくことといえばこんなお粗末な内容で笑えてしまう(生憎実際は冷や汗と乾いた笑いしか出なかった)。
 彼の方はといえば先の答えに続いて、心地よさに線引きするのが怖いのだと震える声で言った。
「光は大事すぎるから、終わりが来るかもしれないくらいなら、このままでいたい」
今まで通り、やっていこうなって、戸を閉めた切り、オレと彼には線が引かれてそれでさよならだ。ああ、理不尽。オレの希望も想いも未開封のままにわかって包んで返してくれた。
 終わりは始まりだ何ていうけど、逆に始まりは終わりだなんて思いたくもないじゃないか。オレは刹那主義者でも懐古趣味もないただの学生で、今の幸せが大事で、だからって今が良ければいいなんて将来を捨てた考えだってもてなくて、つまりはいついつだってありふれた幸せでいたいし、たまには世界中が羨む奇跡なんてモノに遇ってみたくて、ロマンチストと呼ばれるのは恥ずかしくて嫌だけど客観的に捉えてみれば、詩人が云うところの凡庸な幸福を望む痴人なのである。
 だから、不様にも閉まった戸に湿った声を響かせているわけなのだ。高いと称されるプライドも、滅多に変わることのない無表情も、抑揚のない冷えた声音も、今はまるで形を保てていなくて、オレに渦めく形容しがたい感情がそのまま人の形をとっているかのようである。
 しかし口を突く言葉は支離滅裂な感情を理屈っぽく、こんな時でさえ些細なプライドの仕業か彼を言い負かそうとしていたのか、自分の正当性を主張しようとされたものばかりで、とどのつまり、この苦しさから助けてほしいのだと救いを求める本意は少しだって形には出来ていなかった。側にいさせて欲しいと、いつか切れてしまわないように忘れてしまわないように安堵出来る方法を教えて欲しい。

 彼はどうしようもなく優しかったけれど、同じくらい鈍感で、しかし鈍感というにはあまりにも周囲を気にかけていた。こちらの機微に注視し補ってくれた温かさは、彼がオレを見てくれなければ、たった数ミリさえ触れ合わない。伝わらない戯れ言の前に戸は開くことはないし、きっと付けられているヘッドフォンの中では心地よい軽快な音がリズミカルに跳ねているのだ。
 眩しい彼に似合いの音の羅列を贈ったのは他でもないオレで、泣きたくなるくらいに、温かく笑んで大切にすると、きっと毎日聴くと、彼が大層喜んでくれたのも覚えている。どうしたってこんな湿った鈍重な屁理屈と比べようがなかった。いや、あるいはもうそんなことさえ伏せるように、オレの知らない音の波を漂っているかもしれない。
 けれども、それもこれもわかっていながら、だからってどうしたらいいのかも分からないし、他に何一つ行動に移せる気はしない。そしてオレはどうすればどうすればと堂々巡りから抜け出せないまま時間だけが過ぎ、ショートした思考回路に涙腺まで壊れ、いつか戸が開いてこの涙が止まるように背を撫でてくれるのを待つしかなくなるのだ。彼が優しいのを分かって、縋って、浅ましさに溜息を吐かれても、呆れかえられても、それでも首を折ることだけはせずに掬いあげてくれることに甘えずにはいられないのだから。

 こうして繰り返される毎日の中にジャンクションは消える。

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