chloe







仄暗い系



▽サカナの見た夢
▽まざりあう約束(十二国記パロ)
▽移り香
▽約束に口付けて(ノケモノと花嫁パロ)
▽終始夢だけ













▽サカナの見た夢
謙也さんのことはよくわからない
というよりほとんどわからない
それは種が違うとか、どうしてかくまわなければならないのかとか、そういうことじゃなく(いや、それはもうもちろんわからないからこの際置いておく)
彼が何を見て感じてどう思ってるとか、感情が読めない
二つついてる青い眼はほとんど何も見えていないというし、音だって音波がどうのってよくわからないけどとりあえずオレらの言語が同じ形で届いてるのではないらしい
(サカナ…)
あの日訪ねてきた男たちはあれから一度も姿を見せてないし、先輩も大丈夫なんて言っていたけど、あれから鍵を二つ増やした
効果があるのかは知らない
カーテンは閉めたままで謙也さんはずっとうちの中で置物のように座っている
「謙也さん、ごはんですよ」
口元に運んでやって、薄く開いた唇を割ってスプーンを滑り込ませる
小さな子にするみたいに食べさせ続けて、半分くらいに減ってようやく失態に気づく
『食べさせなくても自分で出来るから大丈夫やで』
手ずから食べさせることをして一週間もたつ頃知った事実にいまだ慣れずにいる
「あと、自分で食べてくださいね」
そう言って彼から離れて、自分用に食パンを一枚焼いた
赤くなるトースターを眼の端に入れておきながら、謙也さんがこっちを見て笑っているのが見える
いつも、オレが何をしても、ああやって見えない目を向けて笑っている彼のことが、分からない




▽まざりあう約束(十二国記パロ)
『天命をもって主上にお迎えする。御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる』
彼が、そう言って跪くのを見ていた
伏せられた顔が歪んでいたのを、王は知らない
ざわざわと、気が騒いでしかたがなかった

「光、主上についとって。傷一つないようにな」
「堪忍。近づいたら、噛み殺してまいそうっすわ」
アレはどうにも好かなかった
人間の類はもとより嫌いだったけれど、特に王であると謙也さんの跪くあの男は虫酸が走る
アレは嫌いだ
彼の影で目を閉じると、騒々しいのが一つ鳴いて絡んでくる
「いつも謙也困らせたらあかん言うとるの光やんか」
そう言って這い出て謙也さんに擦り寄るのを、彼は頭を撫でてやっている
「金ちゃん、光ん代わりに主上についとって」
「おん!」
「おおきに」
陰を駆けていった金太郎が気配を消したのに合わせて、寝台に腰を下ろした
彼の膝に首を預けて仰ぎ見た瞼が重そうで、痩せた首筋が頼りなくて咽が鳴る
「光、オレを食べてええよ」
あなたの憂い煩いを食べたる
「せやからオレの四肢になって」
そしたらあなたの全部を飲み干させて
「オレになって、ひかる」
血も肉も骨の髄も呑みこみたい
(―しゃぶりついた脈動が甘い)




▽移り香
変な話、人の死ぬ匂いがわかる
いわゆる死期が近い人からはそういう匂いがする
「……へぇ」
「信じてへんですやろ」
「まあ、ううん」
「別にええですけど」
病患ってる人なんかはソレはわかりやすいほど匂おうけど、病院の匂いやろって思っていた
「んで、なんでそないなこと言い出してん」
この匂いが何か確信したのは、数年前、正月に顔合わせた親戚のじいさんが、そのあとすぐ餅を引っ掛けて亡くなった時だった
数時間前にピンピンしたじいさんからやんわりと漂う匂いに、じいさんが病気してないか聞いてみていたが、全くの健康体だったはずだ
「なんや匂おうんですわ」
謙也さんにまとわりつくようなこの匂い
「………それって、オレが死ぬってこと?」
「……今日はずっと傍に居てください」
「冗談やろ?」
「死なせませんよ」




▽約束に口付けて(ノケモノと花嫁パロ)
子どもの軍団『燃えるキリン』が大人に対抗?反抗?し過激に動いている、そんな世界である二人が駆落ちしようとしていた
1人は金髪に濃紺の瞳の少年
もう1人は黒いケモノの姿をしていた
二人は何かから逃げるように走り続け、道なりに目に留まった協会へと向かう
教会で結婚式を挙げようとしたが、金髪の少年と同じ濃紺の瞳をした青年と小さな身体の刃に捉まってしまう
金髪の少年謙也を引き寄せた同じ瞳の青年の顔を見て、謙也は驚愕する
「…侑士」
黒いケモノは金髪の少年を逃がそうと叫ぶ
「そっちに行ったらあかん!謙也さん!」
伸ばした腕は小さな刃に遮られて地に伏せた
「光!」
ケモノは呼ばれたけれど、彼を引き寄せることはできない
「越前、遊んどらんとさっさっとしいや」
赤の海に沈むケモノを見下ろして越前は、侑士、謙也とともに教会を後にした




▽終始夢だけ
「ひれ伏せ我が忠実なる僕ども」
これ夢やんな?
たった今、痛々しい宣言なさってふんぞり反ってるひよこ頭が謙也さんなはずないし、その足元に這いつくばってるのが白石部長やラブルスなわけがない
奥の柱で磔にあってるのは千歳先輩かもしれないけど
「そこに居るんは誰や」
声とともに背後からオレを捕まえたのは
「ようやったで銀」
…師範やった
「悪く思わんでくれ」とふんぞり反ってるヒヨコあたまの前にオレを引きずって行く師範
「光、どこ行ってたん?探したんやで」
目の前に来てみたら完璧に謙也さんだった
組んでいた足を「足長いですよ」アピールのように解いてみせて、ヒールの音を立てて(!?)立ち上がる
「もう帰ってこないかと思って心配したわ」
そう言って頬を撫でた手がマメの跡もない、節くれもない手で、この夢がとんでもなくとんでもない気がする
(夢って深層心理の現れやったか?ヤバいんちゃう?オレ)
「やっぱり、首輪したらなあかんな?」
伸ばされた手に首輪をはめられて、自分が猫になってることに気付く
驚いて声を上げるとにゃーと間抜けな響きがした
謙也さんに抱き上げられて膝の上で撫でられる
「光はオレのネコ、王子さまになんかならんでええよ」


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