chloe







病んでる2



※ヤンデレになったかも

▽見ていただけ
▽どっちにしたって同じこと
▽おいしい右目
▽有翼の人













▽見ていただけ
始めは雑貨屋の話だったはずだ
光が友達と行った雑貨屋に、オレの欲しがってたケータイの形した消しゴムがあるって教えてもらったのが始まり
次の休みに買いに行ったとき、見回った店内で付けもしないピアスを衝動買いした
買ってしまってから使い道のないことに迷った末に、光にあげようと思ったのだ
後日、昼飯を食っていたときに見えた五色のピアスに驚き、プレゼント計画は終了した
別に今更五色に驚いたのではない
赤のピアスが、ポケットにあるものと同じだったからだ
無意識だった
毎日見てるはずの物を気付かずに衝動買いするなんて、どうかしてる
そんなことが何回かあって、その度にオレは本当にどうにかなってしまったんじゃないかと不安になった
意図せずお揃いのモノが増えていく自室で寝返りを打つ
欲しいと思ったものが同じなら趣味が似ているですんだはずなのに、お揃いはオレには需要のないものばかりだった
本当は衝動買いしてしまうほど欲しかったのだろうか
感化されて趣向が似てきているのかもしれない
そう思い込んで目を閉じた

****

光の持ち物に敏感になっている日々が続く中で、たまたま借りたボールペンの書き味がすごく良くて、「いいな、これ」と溢す
きょとんとした顔でオレを見た光が不思議そうに「買ったらええやないっすか」と言うのに苦笑い
オレは少し疲れていた
「そんなお揃いとか」
「はあ?そんなん言ったら全国なんぼの人がお揃いになるんですか?」
光が馬鹿らしいという風に言うから、オレはなんだかホッとした
そうか、家の使われないピアスもiPodのサイズのあわないシリコンカバーもこのボールペンだって、持っていたって特別じゃないんだ
こんなステレオタイプの市場では些細なことじゃないか
「じゃあ買ってまおうかな」
正面でボールペンをしまう光を見て言う
そうしてオレを抑制するものがなくなった
市松の靴ひも、小さなトライバル模様の入ったイヤホン、シンプルすぎるペンケース、意外な配色のTシャツ
いつの間にか増えたそれらを、光は知らない




▽どっちにしたって同じこと
光とのお付き合いってのがばれて殴られた
せめてカミングアウトってか、自分からちゃんと話しだせていたら何か違ったんじゃないかって、淡い期待を抱いて、届く宛てがなかったことを思い出す
家の中は重たい空気でいっぱいで、こんな所いたくもないのに家から出させてくれない
何もしていないのにやけに疲れた
殴られた頬は手当てされたところで痛むことに変わりはない
三日経っても腫れは引かないままだ
『お前は男やろ』
知ってる
『心は女の子やったとか言うんか』
男だけど光を好きになったらあかんの?
『止めてくれや』
何を止めろっていうんだ
頭がぐるぐるする
頬骨がずきずきして耳鳴りが止まない
「女やったらよかったん?」
『財前君にはもう会うな』
「なんで、女の子の形に生んでくれなかったん?」
『転校の準備せな』
「女の子にして、女の子にさせて…、こんな身体切ったってよ!」
それでもオレには染色体が足りてないから、どっちにしたって同じこと




▽おいしい右目
謙也さんの目がおかしくなった
まつげが生えるみたいに、右目をびっしりと被す細長い小さな花弁
突然家に来てくれと呼び出されて、深夜に自転車を走らせてやってきた彼の部屋で、その異形の右目を曝して謙也さんは笑った
「なんすか、ソレ」
「わからん」
あまりの異常さに正直頭が付いていかない
ぱしぱしと長いまつげが音を立てるように瞬きをする度にハラハラと花弁が落ちていくのを、彼は何を思ってみていただろう
「光」
奇麗に咲いた彼の右目はこぼれそうなほどに潤んでいて、そっと唇を寄せれば甘い蜜の味がした
眼球に舌を這わせると身体を震わせたがさして抵抗もないので、そのままじゅじゅと吸い付く
劣情に潤んだ左目がオレを見つめていた
「謙也さん、痛くない?」
花弁が唾液と蜜で濡れてべしゃべしゃになっていた
じゅじゅ、じゅじゅ
繰り返し右目に吸い付くうちに、ドロリとした感に唇を放す
甘い声を噛み殺していた謙也さんの唇が、はふはふと浅い息を吐き出してとても扇状的だった
ぐちゃぐちゃになった彼の右目は閉じられていて、そっと花弁を押し上げ目蓋を開かせると、熟れた眼球が溶けていた
もう一度痛みはないかと聞いても首を振るだけで
まあ、眼球が溶けたって花が咲いた後だ、大した問題ではないと、再び甘い右目に吸い付く




▽有翼の人
背中が熱かった
焼けつくような痛みと脈打つ背筋
歪に隆起してデコボコになった背を丸めて痛みに耐える
日に日に変形を大きくする背中に何が起こっているのかオレは気付いていた
それももうすぐ終わる
明日には、この痛みを彼方にまで飛ばせる
「会いに行くから、もうちょい待っててくださいね」
握りしめたケータイの液晶に浮かんだ11桁をなぞる
もう少し、もう少しで謙也さんに会いに行ける
それだけが意識が飛びそうなまでの痛みを受け入れる理由になった
遠くに行ってしまった謙也さんを引き戻すことも、縛りつけることもできなくて、会いたい思いだけがバカみたいに膨張して息苦しい
明朝には、オレにも翼が生える
そうしたら会いに行ける
誰の目からも謙也さんを隠して、生まれたばかりの翼で包むんだ


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