chloe







計画的暴発



※企画|謙也くんのお誕生日さま
 お題:乱暴な謙也くん


 息を切らしていた。オレを見下ろす眼はゆらゆらと震えていて、わななく唇、顔色の蒼白を見れば、自然と口角があがるのがわかった。
 冷たい教室の床で、打ち付けた背中から腰がじんわりと痛んでいる。何だかとても現実味のない痛みだ。きっと青アザにもなりはしない打ち身だけれど、スゴい音がしていた。痛みより千切れそうな冷たさがしみる。
 床と仲良くするオレを跨ぐように膝立ちする人がゆっくり肩を握ってくる。肩甲骨と背骨がぐいぐいと床に押しつけられて時折鈍い音がする。掴まれた肩も骨が擦れるような軋みと音を立てていた。
「答えろや」
低いけれどふあふあと安定しない音が漏れたのを笑う。すると、ぐっと力が増して、筋を痛めてなければいいと思っていた。それに気がついてか否か、恐らく気付いてなどいないだろうが、オレの肩を掴んだ親指がやわらかく表面を撫でる。温かい、彼の指だ。
 見上げた視界で、浅く息を吐くのに合わせて揺れるナイロンが裂けたみたいな金髪が、酷く劣情を掻き立てる。激昂する目元は赤らんでいて、ぴりぴりと張り詰めた空気と相まって、泣いてるようにも見えた。オレの眼は都合よくできていて、怒っていようが泣かれようが、彼であるなら何だって魅力的だと感じられる。気持ち悪いと自分でもわかっているが、眼科に世話になるわけにもいかない。

 オレが彼の怒った、人を殺せそうなほど鋭い眼光や、或いは堅く握られて石のような拳とか、他人の全てを否定しきったような心地のする冴えた雰囲気だとか、そういったもの全てがいとおしいと語っても笑い飛ばされるだろう。平静の彼を知るものは、彼がそんな冷酷無比な顔を持ち合わせるだなんて努々思わない。ひた隠した暴君を誰もが胸中に抱えているだろうに、忘れたふりをしていうのだ。
『謙也に限ってありえへん』
彼は君子ではないし、賢人とも云いがたかったはずなのだ。

 ゴツリと改めて音にするならずいぶんと間抜けな形容になるが、頬骨が嫌な音を立てた。殴られた。相変わらず痛みは麻酔で腫れあがったみたいに膨張して現実味を帯びない。ただ、彼が頑なに守り続けた自制というものがひび割れを起こしたことだけはわかった。彼が拳を痛めている事実だけがオレを高揚させる。
 胸ぐらを掴み上げられて、乱雑に床に戻される。彼が何か吐き捨てるように口にしたようだったが、オレの耳には息遣いだけが残って、言葉など正しく意味をなしていなかった。そんな様子を感じとってか表情は憎々し気で、彼と出会ってこの方初めて見た気さえするほど馴染みの無い顔だ。
 ぞくぞくと込み上げる熱を持て余し、彼の腕を握ると撥ね避けられる。
「そんな手で触るな」
オレを殴り倒した手がソレを言う。彼に恋した女を憎んで乱したオレを責める。どうしたってオレが悪いのだ。しかし、彼らしからぬと言える自己の行いを棚上げし、他者を責めることでバランスを保つその様は、滑稽で美しく、求めて止まなかったそれだった。常識を逸し乱暴で醜い彼のエゴが堪らなく愛しい。


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お誕生日おめでとう謙也くん
全くお祝いになってなくてごめんなさい
大好きです謙也くん

企画さまありがとうございました

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