chloe







病んでる



※ヤンデレでなく病んでる

▽受胎告知
▽戯れ
▽アレルギー










▽受胎告知
フラ・アンジェリコってっ知っとる?イタリアの画家やったんやけど、ああ、もう死んでもうてるよ、ルネサンス期の人やって、いや、べつにオレも詳しないんやけど、そんアンジェリコのマリアっちゅうんがまたえらいキレイでな、まあ美人かはようわからんけど青の色がキレイで、あ、天使の羽も七色しよって、え?ああ、美術の本に載ってたん見たくらいなんやけど、うん、キレイやったよ、受胎告知いうんやったかな、まだ誰とも繋がったこともないマリアが神の子宿しましたよーなんて急に知らされてもうて、びっくりしてんねんな、でもお腹触る手ぇが優しく見えんねん、母親やんなって、子どもって精子なくても作れてまうんやな、あ、物理的な意味でやで?なら卵子なくてもある日お腹に赤ちゃんなんてことありそうやなって、え?何がいいたいって?あー、変な話やけど最近おかしいねん、吐き気あったり、食べもんの匂いが怖いようなって、腹の具合もなんでかようなくて、ずっと重たいん、なあ、どう思う?なんでこんなに重たいんやろ
やつれた顔がそう言った。
下腹を優しく撫でる手は細いけれど、女性のソレでなく、骨ばって固い。
お粥を掬ったレンゲを口元に運んでやれば、眉をしかめてさめざめと泣きだす。
減らない粥が冷たくなった。




▽戯れ
瞬きをしたら彼はいた
暫くぶりに見た光はオレの足をまたぐように膝立って言う
「全部夢ですよ」
深い翠の目が繰り返す
「全部夢ですよ」
「夢?」
「そう」
膝の上に向かい合わせに座って抱きついてくる身体は発展途上で小さくて薄くて軽い
首筋に顔を埋めて擦り寄ってくる温度は低体温の光らしい温度でほっとした
まっ黒の髪を撫でてキスすると背中にまわされた腕の力が強くなった
肺のあたりが苦しくて息が上手く出来ない
とても泣きたい気分になった
「泣かんでください」
悲しそうに歪められた目がオレを見ていて、オレはまた苦しくなる
「ずっとそばにおりますから」
光の目は本当かと聞き返すことすら野暮ったいほど偽りの影も見えない真摯でまっすぐなものだった
信じて、うなづいて、もう一度抱きしめたら一生分のさみしさを忘れられたかもしれない
「ずっと」
口の中で呟いて、オレの涙腺はもう決壊
「ずっと、ずっと?ずっとってなに?なんなん?どこにあるん?」
「ずっとはずっとやって、高校行っても、大学行っても、大人んなっても、就職しても、それから先も死ぬ時も」
光がなだめるように背を撫でるのが痛くて痛くて、逃げ出したいのにしがみつくことしかできない
「ずっと一緒におるよ、謙也さん」
「うそや、そんなんできん」
「嘘やないって、絶対離したらん」
声は二重に三重に聞こえて、さらに重なって鳴りやまない
(嘘や、お前はもうおらん)
『夢や言いましたやん』
声とともに後ろに引かれたかと思うと、オレに並んだ身長の光が不機嫌そうに言う
『言ったやないですか。全部夢やって』
『はよ、目ぇ覚ましてください』
「ゆめ…?」
夢って、中学の頃の光のことが、昔の、あの頃の幻影のことをいっていたんじゃないのだろうか
今、ココにあるモノが、オレの幻想で、まがいモノで、そうだろう
光はいない、オレたちは一緒にいられなかった
『それともオレがいない方が、ええ?』
「え?」
『夢から覚めたないなら、無理になん覚ましたないけど、離したらんって言いましたよね?』
「……」
嘘や
光はおらん
都合いい幻想なら何回も見た
目が覚めるたび探した体温はもう戻ってこない
『はやく、戻ってきて』
「…夢?ほんまに、夢なん?目ぇ覚めたら、ずっと?」
『ずっと、一緒におりますよ』
今までが、悪夢やった…?
目を覚ましたら、あの頃に返れる?
嫌な夢を見たって、光の手を握って、もう一度約束出来るのだろうか
目を醒まさなければ




▽アレルギー
謙也さんが吐いてる
酸えた臭いがした
吐くようになってから、戻すのが辛いから食わんようになって
食わないからせりあがるのは胃酸ばかりで喉を焼くから、よけい何も食えないようになっている
悪循環、なのだろうか
よくわからない
食べることが苦痛にしかならないなら同じだ
なら吐くことは?
「もう、いやや」
「おちつきました?」
薄くなったように思う軽い背を撫でた
「嫌、キライ、こんなのいやや」
「謙也さん」
「う、ぁあ、あ」
ぼろぼろ、ぼろぼろ
溢れた感情をすくい上げてみようと思っても触れずに落ちる
「我慢せんで言うてみてください」
噛み締められた、唾液とか胃酸なんかの交ざる唇をなぞった
歯の震えが伝わって、指も震える
「出したほうが楽なんやろ」
目を見開いて、悲しい結末にでも出会ったような顔して、空のはずの胃をひっくり返す


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