chloe







切ない系



▽うぶこい
▽倒れた標識
▽嘘と鎖
▽きっと知らない
▽夏は終わった










▽うぶこい
光を好きになって、それと一緒に一生の秘密を作った
それから一緒にいるのが嬉しくて楽しくて少し辛くなることを覚えて数日
光とキスする夢を見た
やっぱり自分はそういう風に彼を好いているんだと改めて気付く
生意気で毒舌で天才だけど不器用でかわいくないけどかわいい彼を好きなのだと、毎日見ているはずの顔を思い出そうとしたら何だか泣けてきた
顔は思い描けなかったけど存在は色濃くて、光を思って泣き止めない
悲しいわけじゃないのに、彼に支配されたままの胸は窒息する




▽倒れた標識
「知ってました?」
クーラーで冷え切った部屋で、シーツにくるまって膝を抱き、寄り添って呟く。白いシーツのさらさらとした感触に気道が悲鳴を上げそうになる。隣り合った彼は顔を膝に埋めていて、その表情は見えない。
「人間って、報われる可能性のない恋はしない生き物らしいですよ。」
「さよか。」
「正直、始まらないと思ってたけど、」
「オレは、お前が好きやから。」
オレの言葉を遮った音が湿っていたら良かったのに。彼の言葉は泣き声でもなければ、まして震えていることもない、強いものだった。オレの方が泣いてしまいそうな、長い夜に二人きりで居続けられたらいいのに。
「どこに、いけるんやろ。」




▽嘘と鎖
「…いたい。」
濡れた声だった。双眸からこぼれた涙は静かにシーツに染み入っていく。赤くなった眼の縁に唇を寄せるとわずかに跳ねた。怯えか戸惑いか拒絶か驚きか、どれにしたってそこに意味はなかっただろう。優しい彼は結局オレを受け入れる。オレを望まなくても、拒みたくても、甘い彼は抗わない。
「ひかる、痛い。」
伏せた目を上げて、オレを見た謙也さんにできるだけ優しく笑んで、その頬を撫でた。
「どこ?どこ痛みます?」
「…腹。」
「どの辺り?ここ?」
手探りに薄い腹に手を這わし、謙也さんを窺う。違うらしく、手を誘導されるままに脇腹の少し下、足の付け根よりは上のあたりに置く。ゆるく撫でながら乾いて唇に自分のを重ねた。微かに開いた唇の隙間に空気が残って、温まって膨張してきたような錯覚がオレと謙也さんを引き離す。もう一度、今度は隙間なんて無いように、口づけた。くぐもった、息継ぎのような音が近くて心地好い。
ふと、手に手が重なる感触に意識を降下させると、彼は再びオレの手を引いて自身の胸に当てた。
「光、………。」
ほとんど触れ合う位置でオレを呼んで、けれど何か言い淀んでとろけたままの唇。ずらされた視線の先は暗がった部屋の隅。
「謙也さん、逃がさへんよ。」
「ひか、」
「いたい?」
「…いたい、いたいよ、」
痛いと泣く彼の平らかな胸を撫でた。神経のすべてが泣きだしたように、オレは全身が熱くて苦しかった。




▽きっと知らない
駅前のコーヒーショップの窓際に席を取り、ぼんやりと雑踏を眺めていた。視界の中央辺りで、人の波が止まっては避けられ、つまりは誰かが立ち止まっているのだろう。
今どき金髪なんて流行らんだろうに、バカみたいな金色頭がこちらを見ていた。遠くて視線の先なんかわかったものではないし、そもそも興味もないが、こちらを向いていた。その人は表情を歪め(たように見えて)その場にしゃがみこんだようだった。人の波に沈んだその人はもう見えず、どうなったかしらない。ただ迷惑やんな、と少しだけ思った。
人の波に再び金色が浮かび上がったかと思えば、今度は視線を感じた。雑踏の中、金色の近くでこちらを見ているメガネがいる。恐らくダサいにもほどがある丸眼鏡だ。オレはそれから視線をずらし時計を見た。約束の時間までまだ15分ある。雑踏に視界を返すと、金色とメガネが連れたって歩いていくのが見えた。
オレの頭には悪趣味な人たちだったとだけ残った。それも直に消える。とりあえず、世間話の話題にでも金髪と丸眼鏡は有りか聞いてみよう。




▽夏は終わった
思春期の劣情は大人になれない現実に滲んで、夢みがちな妄想症を患うばかりに、それを恋だと思いこんだ
中学生のガキなりに一生懸命恋して、愛したつもりだった
これが一生の恋になると思って、生涯をかけて愛しぬこうと誓ったはずだったのに
今、腕の中には別の誰かを抱いて
永遠を願ったあの頃は消し去りたい過去になった
だって、君はもういない


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