chloe







白葬2
キミが殺したボク


※謙也サイド


 夏生まれの彼女の希望で、式は夏になった。誕生日にというのはどうしても日取りの確保ができなかったけれど。ゆっくりと流れる季節の中で、夏だけが酷使された電球のように、点滅を繰り返す。

 式の開始予定まであとわずかというとき、控え室の戸が叩かれた。誰かを考える間もなく、開かれた向こうには予想だにしなかった彼がいて、言葉を失う。さっき確認した受付の出欠はまだ取られていなくて、もう来ないのかとすら思っていた。
 オレは破顔して、懐かしい彼の名を呼ぶ。唇に乗った音は本当に懐かしくて、震えていたかもしれない。
「ひかる。」
光は眉根を少し寄せて、それから口角を引き上げて笑ったようだった。でもそれは、彼が困ったときにする表情だったと記憶していた。そんな光に、オレは努めて笑みを浮かべる。
「来てくれたんやな。」
 正直光が来てくれることに期待していなかった。だから招待状の返事が来たときは目頭が熱くなったものだ。そして今日もこうして目の前にいる。それだけで笑ってしまいそうなほど泣きそうだなんて、誰にも言えやしない。
「あんたの式なら、来なあかんやろ。」
「なんやそれ。」
本当は、来てほしくなかった。
 すっかり大人になった彼の立ち姿をこんな形で見たくなかった。オレがいなきゃダメだったじゃないか、崩れそうな足元を手を引いて歩いたはずなのに、と、幼かった日々を思う。しゃがみこみたい衝動を押さえ、擦れそうな声でありがとうと告げる。来てくれて、ありがとう。
 「謙也さん、」
彼の呼ぶ声に重ねてノックの音がする。外からスタッフの時間を告げる声。思わずあと五分待ってくれと頼み、足音が去った。
 深い光の声は、どこかうわの空で、迷子のように思えたその手を握った。すると悲しそうに顔を顰めたので指を解くと、逆に握られる。
「オレがいなくてもお前は平気なんやろ。」
別れから何年経っても忘れられなかった言葉。いなくても平気なのだ。オレも、光も、こうして何年も過ぎた。
 時計がカチリと針を揺らす音に彼の手を解く。背筋を伸ばして部屋を出た。光をあの部屋に置き去りにして、声はかけられなかった。
(お前に、連れ出してほしいなんて傲慢だった)
(オレはヒロインじゃない)
(こんなにも祝福される中で全てを捨てて)
(お前を選べるヒーローにもなれない)
(つまらない、きたない、男だ)

 隣で微笑む彼女が気に入った、チャペルの鐘が響く。音の波が温かな祝いを攫っていった。降り注ぐフラワーシャワーにモザイクのような視界の奥に映った窓。ガラスが反射して中は窺えないけれど、彼はきっとまだあそこにいた。
 口々に繰り返されるおめでとうの嵐に、目を細めた。祝福が胸を荒らす。オレ自身の腑甲斐なさを裁くような堅い白。
「謙也!」
振り返れば白石が彼を連れていた。どうか来ないでと願っても、距離は縮まる一方で、彼の黒が白を刺す。
「結婚おめでとうございます、謙也さん。」
 溢れたのはなんだっただろう。嗚咽と噛み殺した言葉を重ねて頭を下げた。
「ありがとう。」
(ここが墓場、)

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