chloe







小さな海



※光も謙也も女の子


 ふわふわの身体に抱きついてやわらかな胸に頬ずりすると、謙也さんはくすぐったいと笑いながら優しく頭を撫でてくれる。好きで好きでたまらなくて何度も名前を呼べば、甘えたさんやなあってにっこり笑顔。それがこの世の何より可愛くて胸がきゅんとした。
 少しだって離れたくなくて、抱きついた腕の力をいっぱいに強くしてかわいいかわいいと言う。そうしたら埋めてた胸から顔を上げさせられて額にキスされた。「かわいいんは光の方やん」って普段ぱっちり開いた目を優しく細めて、歌うような声で聞かせてくれる。かわいいなんて褒められんのに別に感動もあったもんではなかったけど、大好きな謙也さんに言ってもらえると、人よりちょっとはかわいく産んでくれた親に感謝。
 謙也さんの白く細やかな指先がしっとりと触れて頬を撫でていく。私のと違って謙也さんの爪は、付け爪みたいなきれいな縦長で薄ピンクのつやつやで、末端まで愛らしい。頬をすべるその手を取ってそっと口付ける。それからちょっとだけ指先を舐めるとほんのり甘くてほんのり塩っぽさのある謙也さんの味がした。甘がみしたり吸い付いたり繰り返すと子猫さんみたいと顎の下をくすぐられる。
 唇に触れた肌はマシュマロみたいにふわふわしていて、こんなにやわらかなら男なんかに触られたらすぐに傷んでしまうと思った。まるで熟れた桃みたいな人。ふんわり香る匂いだってそう。はつらつとした謙也さんにはシトラス系がと言われがちだけど、フローラルフルーティの甘い香りのほうが謙也さんのぬくもりにはあっている。この場所は誰にも明け渡すつもりは毛頭ないけど。
 謙也さんにすり寄ると五感のすべてが満足して気持ち良くて、こんなに満たされる場所他に知らない。そう思いながらぼんやり眠くなってくるのを感じれば、それに気付いた謙也さんは「眠たいん?」と髪を撫でてくれる。黙って頷くと、ベッドで壁にもたれて座っていた身体を一緒に倒し、二人で横になった。下ろした瞼にキスをくれて、あとは微睡みに落ちていく。

 夢を見た。母のお腹のなかにいたときの夢。実際胎児だったときの記憶ははっきりと持ち合わせてはいないから想像のようなものだと思う。とはいっても胎児だったときは間違いなくあった私の過去であるから、うまく認識判別できないだけでその記憶は脳のどこかに生きているともいえるのだけど。
 あたたかな海だったそこは、きっと羊水の中で、絶えなかった振動は母の脈動だった。世界は一人きりだったけど淋しくも悲しくもない。そこは大切に愛された小さな海だったから、だから私はそこに生まれた。もう流れてしまった、私の小さな海。

 目覚めると目が重くて、シーツにつけた頬がじっとりとしていた。まだ眠っている謙也さんを起こさないように、そっと身体を抜く。眠る身体をしっかり仰向けに転がして、ピアスが痛かったらごめんなさい、そう思いながら薄いお腹に耳をあてる。上腹部を撫でながら、その先のやわらかな胸も、頭を預けているこの下腹も、数多の命がこれを欲しがるんだろうと思った。でも、自分よりずっと弱くて、大事にしてやらないと流れて消えてしまうそれらには悪いとは思うけど、どうしてもこの人は譲れない。
 謙也さんは私の人でしょ?下腹部がギリリと痛んだ。

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