chloe







融解バンビ



※ベタベタしてる


 頬を撫でる。髪を梳く。手を繋ぐ。何でもないことのように触れてくるのに、オレから手を伸ばすと強張る肩。なで肩の謙也さんの下がった両肩が、びくりと跳ねて、上がったまま硬くなるから、黙って腕を下げる。触られるのが嫌じゃないのはわかっているけど、いい加減慣れないものだろうかとは思う。だから耐性でもつけて貰おうと、こうやってちょくちょく手を伸ばしてみせているのだ。全く効果は無いようだけど。
 オレの転がったベッドの端で壁を背に片膝を抱えて座り、ワックスをつけていないオレの髪に指を通して遊んでいる。ときどき笑う。何がおかしいのかは分からない。ただそうやって特にコレといった何かをするわけでもなく、雑誌を読むオレに触るだけ。何度も読んだ雑誌は内容がわかっているから、単純に文字を追うことさえ早々に終えてしまう。
「謙也さん。」
もう三度目の呼びかけだった。前の二度は「もうちょっと」と流されてしまい、手持無沙汰に雑誌を眺め、ときどき彼がするように手を伸ばすのを繰り返したのだ。ちなみにその時この人は、「生き物みたいやなぁ。」と当たり前の、それでいて大変失礼な感想をくれた。仮にも恋人をその他生物と一緒くたにしないで欲しいと思うのは不当な願いじゃないはずだ。
 兎も角、今度はそうはいかないと思いながらも、結局は謙也さんに絆されているのをわかっているから、彼がそのままというならあと三時間だってこのままでいるだろうとも思ってしまう。それに謙也さんがこんな風にただまどろむ空間にゆったりと居ること自体が珍しくあり、ならば急く必要はないのだ。オレはどちらかといえばこういう空気の方が好きだったりするから。
 腕を伸ばして、謙也さんの温かい首筋に触れる。やはり肩は上がっていて、でも目を細めて笑っていて、
「なん?」
そう言いながらオレの髪をいじるのを辞めない。謙也さんに触られるのは気持ちがよくて、でもオレが触るのはくすぐったいのかも、とか唐突に思った。
「嫌っすか?」
「なにが?」
「オレが触るの。」
かといって手を引く気は起きなくて、手のひらに感じる体温が粘着質かと思うほど離れがたい。けれど体勢のせいで腕を上げてるのが辛くなってきて、仕方なしにと離れようとしたところ、頭を傾けて、肩と頬でオレの手を挟みこんできた。その顔はニヤニヤと笑っていて贔屓目で見たって変態としか形容せざるを得ないものだった。そこへ吐いてやろうと思った毒は、出てくる前に自分で飲み込んでしまう。
「嫌やないで。」
でも、と続けられた言葉は触れた箇所からジンジンと染みる。
「くすぐったいんよ。光に触ろうとすると全身ざわざわしてもうて。おかしいやんな。今更、緊張しとる。」
 体勢を起こして、膝に額をつけて一人で「かゆいぃ」とか照れたように笑っている人に寄り添って座る。少し触れた肩にびくりと反応して、僅かに視線を此方へ寄こす。目が赤くなっていて被れたみたいだと思った。鼻先が触れ合いそうなくらい近づいて、オレが少し動くたびにひくひくと反応してまるで小動物。生き物みたいってこういうことか、と思いなおす。ここに学校で見る『忍足謙也』いうモノはいない。
「キスしてもいいっすか。」
「…いつも聞かへんやんか。」
「言って。」
「……」
「キスしていい?」
「おん。」
 感じていたのは、湧きあがる衝動のような畏れ。触れ合った温度は湿り気を帯びていて、生々しい生物のソレだった。顎を掬いながら、伏せられてた目を覗けば、じっとりと重く深く、オレしか知らない。そう感じると気分が良かった。
「慣れるまで、ずっとこうしてましょうか。」
まだ暫く慣れることはないだろうけど、慣れてしまうその前に溶けきってしまえたら最高だと、抱きしめた腕を強くする。

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