伝え愛

「芭蕉さん。」

縁側に座りのんびりとお茶を啜る芭蕉さんに声をかけると、芭蕉さんは嬉しそうに笑う。

「どうしたの?なまえちゃん。」

私はその笑顔に誘われるように芭蕉さんの隣に腰掛けた。
芭蕉さんは優しい瞳で私を見つめてくれる。

「私、芭蕉さんが好きです。」

まるで犬猫に言うように軽い調子でいうと、芭蕉さんは驚いたような顔をする。
しかし、その意味を理解した芭蕉さんは優しく笑う。

「あ…ありが」

「嘘。」

御礼の言葉を遮れば再び驚いた顔。

「へっ…!?」

「嘘なんです。」

私の言葉を聞いて芭蕉さんの目は点になっている。
なんだかその表情が新鮮でもっと意地悪したくなっちゃう。

「実は嘘なんです、芭蕉さんが好きってこと…。」

そう付け加えると芭蕉さんは言葉を失い金魚のように口をパクパクと動かした。
たぶん、予想外の出来事に本当にびっくりしているんだと思う。
そんな芭蕉さんに私は言葉を続けた。

「だって、本当は大好きなんですもの。」

「あ…」

「ね、“好き”だけだと嘘になっちゃうでしょ?」

クスクス笑いながら芭蕉さんを見ると、心底安心した表情の芭蕉さんがいて。
よくみるとその目には涙が浮かんでいる。
こういうときに“芭蕉さんに愛されているんだ”って感じちゃう私。
たぶん不安なんだと思う。
そんなことを考えていると芭蕉さんは私に辛うじて聞こえる程度の声で呟いた。

「なまえちゃんに嫌われちゃったかと思ったよ…。」

どうやら不安なのは私だけじゃないみたいで。
芭蕉さんの震える声と涙が、彼と私の気持ちが同じであると伝えてくれる。

「まさか。」

それが嬉しくて芭蕉さんに寄り添い、芭蕉さんの涙を拭う。

「ずーっと大好きです。」

私がそう伝えると芭蕉さんは私を優しく抱きしめた。
こんなふうに芭蕉さんから抱きしめてくれるのは初めてで、芭蕉さんの背中に腕を回すのを忘れてしまった。

「こんな私を好きでいてくれてありがとう。」

耳元で囁かれた言葉はいままでの“ありがとう”よりもずっと愛が溢れているような気がして私も泣いてしまった。


















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伝え愛/芭蕉
fin
2010.06.16

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