愛しい人への罰

ガタガタと家具を荒らす音が部屋中に響き渡る。
泥棒かそれとも曽良がまた芭蕉に断罪を喰らわせているのか…どちらにしても大好きな師匠のピンチ。
なまえは洗濯物を放り投げて、居間へ急いだ。

「何事ですか、芭蕉さん!」

勢いよく襖を開けると散らかった床の真ん中に師が立っていた。

「あ、これは…その。」

なまえと目が合うと大慌てで言い訳をしようとする芭蕉よりも、先程まで塵一つ落ちていなかったはずの部屋が見るも無残な状況になってしまっていることに意識を持って行かれる。

「…何事ですかね?」

せっかく掃除をしたのに…と力無く床に座り込むなまえに芭蕉は困った顔をする。

「実は耳かきを探していたんだけど、見つからなくて。」

「耳かきはここには無いですよ、前も言ったじゃないですか…。」

がっくりとうなだれていたなまえは静かに立ち上がりよろよろと隣の部屋へと姿を消した。

「なまえ、ちゃん?」

あまりにも不安定な足取りに不安を隠しきれず、怖ず怖ずと芭蕉が隣の部屋を覗き込むと、耳かきを持ったなまえが部屋の真ん中に座っている。

「何ボーッとしているんですか?」

「あ、耳かきありがとう。」

芭蕉は嬉しそうに耳かきを受け取りに行くが、なまえは持っていた耳かきを芭蕉に渡すどころか隠してしまった。

「え…」

豆鉄砲を喰らったような顔をした芭蕉を冷ややかになまえは見つめ、静かに口を開いた。

「さ、横になってください。」

言ってることがよくわかっていない芭蕉は静かにしゃがみなまえと同じ目線になり小首を傾げる。

「早くしてくださいよ、芭蕉さん。」

とろとろと行動する芭蕉に急かすよう言えば、芭蕉の頬が赤く染まった。

「まさかなまえちゃんの膝のう、え?」

上目遣いでなまえを見つめる芭蕉に、眩しいほどの笑顔を返す。

「部屋を散らかした罰です。言うことを聞いてくださいね?」

芭蕉はぐうの音も出せず、ただ素直になまえの膝の上に頭を置いた。
































「ちょっ…なまえちゃん!耳っ、耳!!」

「うあー、芭蕉さんって耳弱いんですねぇ。」

膝の上にいる芭蕉の耳に息を吹きかけながらなまえはクスクスと笑う。
芭蕉は足をばたつかせるが何の抵抗にもならなかった。

「いいですか、探し物をするときは私を呼んでくださいね。」

わかりましたか?と耳元でそっと囁くと、芭蕉の肩がビクリと震える。
それを見て気を良くしたなまえはそのまま耳朶を甘噛みした。

「ひひぃん!わ、わかったから!」

「ふふふ。」

そのあと暫く芭蕉庵から、芭蕉の情けない声が響いたとか響かなかったとか。


















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蒼月様リクエスト
愛しい人への罰/芭蕉
fin
2010.06.02

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