足の痺れの治し方 「あ…、はっ。や、やめてください…。」 「何ですか、その目は。」 私は今、冷ややかだがどこか楽しそうな曽良兄さんに見下されている。 見下されているどころか私の足の上には曽良兄さんの足が置かれていて。 その曽良兄さんの足が少しでも動かされたら喉から悲鳴が上がってしまいそうだ。 こんなことになったのはほんの数分前。 今日は芭蕉さんと曽良兄さんと3人で真面目に句会の準備をしていた。 あまりにも真面目な雰囲気だったから、その空気にのまれ珍しく長時間正座をしてしまった事が私の敗因。 「よし、こんな感じでいいかな。」 芭蕉さんが嬉しそうに自分の書いた俳句や弟子の俳句をまとめた冊子を曽良兄さんに渡す。 それを受け取った曽良兄さんはパラパラとそれを見ると静かに机に置いた。 「まぁ、いいと思いますよ。」 「ヒャッホー、曽良君に褒めてもらえちゃった!」 「わかりましたから、お茶を持ってきてください。」 「うん、わかった。」 気分の良くなった芭蕉さんは私がいることを忘れそのまま、台所へと消えていった。 どうしていいのかわからず曽良兄さんに視線を送ると 「ああ、貴女も見ますか?」 スッと差し出された冊子は私から随分と離れている。 「自分で取りに来い…ですか。」 「何で僕が妹弟子のために動かなければならないのですか。」 私は渋々立ち上がろうとした瞬間足に力が入らないことに気付き畳に手を置いたまま止まってしまった。 「…!」 「?」 なかなか動こうとしない私を見て不振に思った曽良兄さんは冊子を机に戻すと音も立てず私のそばまでやってきて、偶然なのか曽良兄さんの足が私の爪先に触れた。 「やっ!!」 その瞬間足に電気が通ったように痺れまるで自分の足ではないような錯覚に陥って。 「…。」 私の足の痺れに気付いた曽良兄さんは無言のまま、私の足首に足を置いた。 「兄さ…やだぁ!」 「そんな口の聞き方をしていいと思っているのですか?」 ジンジンと擽ったさと痺れが混ざったようなそんな感じが足全体に広がっていって、曽良兄さんの足が更にそれを促すように刺激を与えてくる。 「…あ、はっ。や…やめてください。」 必死に曽良兄さんに視線を送るが全くそんな事も気にすることもない曽良兄さんはどこか楽しそうで。 「何ですか、その目は。」 「んん…」 逃げたいのに足が痺れているからそんな事もできやしない。そもそもこんなことになったのは足の痺れのせいか…。 「ご…めんなさ、い。」 「おや、謝るということは悪いことをしたという自覚があるようですね。」 ニヤリと笑いまた少しだけ足に刺激を送られる。 すると廊下からパタパタと足音が響いてきた。 「…芭蕉さぁん!」 助けを求めるように師の名前を呼ぶとその足音が少し速まり、勢いよく襖が開き、慌てた顔をした芭蕉さんが入って来た。 「ど、どうしたの!?」 しかし、そのときにはもう曽良兄さんは私から足を退かしていて。 状況のわからない芭蕉さんは首を傾げ曽良兄さんに視線を送った。 「足が痺れていたようなので介助してあげただけですよ。」 「う、嘘だぁ!」 そういって立ち上がるともう痺れは消えている。普段ならまだ痺れが残っていてもいいのに。 「あ、れ?」 思わず曽良兄さんと自分の足を交互に見て首を傾げると。 「足の痺れは放っておくより少し刺激を与えた方が治りやすいんですよ。」 しれっとした顔をした曽良兄さんは芭蕉さんが持っていたお茶を一つ取ると、もといた場所に腰掛けた。 「〜っ!!」 悔しくて唇を噛むと芭蕉さんは私にお茶を渡し首を横に振る。 「さ、お茶をいただこう。」 諦めろと言う視線に肩を落とし、私は渋々曽良兄さんに腰掛けるのであった。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 足の痺れの治し方/曽良 fin 2010.04.26 (2010.04.26〜2010.05.28) |