離ればなれ

広い空。
彼女の見てる空も同じなんだろうか。

私はずっとここで君を思っているよ。





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一日がこんなにも長いなんて知らなかった。
いやに窓から見える雲の動きが遅く感じてしまう。
広くて静かな部屋にいると、共にこの部屋で過ごしたなまえちゃんを思い出す。

「芭蕉さん。」

ふっくらとした唇から漏れる声はどんなときも透き通って、私の心を魅了する。
私の知らない歌を口ずさみ、思い出したかのように私を呼ぶ。
悪戯っ子のように笑うなまえちゃんに、この手を伸ばせばいつでも触れられたのに。

「ぐずっ…。」

鼻を啜ったのと同時に目から涙が零れ落ちた。
零れた涙は抱きしめていたマーフィー君に当たると、後を残して消えてゆく。

君は今何をしたいのかな。
何をしてるの?

心の中にはなまえちゃんへの思いが募るばかり。でも、なまえちゃんへこの思いは伝わらない。

はぁ…と小さくため息をついた。

「隣町まで買い出しに行かせた程度で大袈裟なんですよ、芭蕉さん。」

冷たい声が部屋に響き渡った。
私が顔を上げると目の前には(鬼)弟子の曽良くんが立っていた。そういえば、本を貸す約束をしていたっけ。

「だって、あんなに可愛いんだよ、誘拐されちゃうかも。」

こんな風になまえちゃんの姿を見ないで生活するのは初めてなもんだから不安で、心はなまえちゃんのことでいっぱいになってしまう。

「そんなふうになるくらいなら最初から行かせなきゃいいんですよ。」

「どうしても行きたいって言うから。」

「…馬鹿が。」

曽良君は舌打ちをすると、部屋の隅で小さくなっているを無視して書庫へ行ってしまった。

隣町までの道は少し複雑で、女の人の足だと一日以上かかってしまう。
怪我はしていないだろうか。
淋しくないだろうか。

曽良君の言う通り、一人でも行けると言い張るなまえちゃんを引き止めたらよかった。

空を見上げると少しだけ太陽が傾き始めていた。














君がこの部屋を出て、半日。















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芭蕉/離ればなれ
fin
2009.10.20

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